デスゲーム0日目―⑤
業務用のスマートフォンに着信が入る。部長からだ。
「お疲れ様です。すいません今会場に向かっていて……」
「ああ聞いているよ。死人が出たらしいな」
「あ、はいそうなんですよ。これどうしたらいいですかね……」
「わからんな、過去にも無い事例だ。とりあえず時間が必要だろう。私が上に延期をかけあってみるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「君も頑張りたまえよ」
通話を切る。遠山は年甲斐もなく走り出した。
~~~~~~~
事務所から会場までは徒歩で15分ほど。齢30の全力疾走でなんとか12分まで短縮した。日頃の健康意識の高さが功を奏したと言えよう。
息を切らし、目の前の死体に目を向ける。まだ16歳という若さのその少女は、何者かに殴られたのだろうか。頭から血を流しうつ伏せで倒れている。衣服は乱れていないが、寝る直前だったようだ。靴下や上着は脱ぎ捨てられていて、付近には部屋に常備されているスキンケア用品が散らばっていた。
冗談じゃない。この娘が死ぬのはこれからなんだぞ。
遠山は憤っている。彼が担当している今回のデスゲームは、明日から始まる予定だった。標的を拉致し、部屋に幽閉した段階だ。まだどのようなゲームが行われるか、どうすれば脱出できるかといった概要すら説明されていない。
参加者に欠員が出るなんて前代未聞、まして殺人事件なんて論外だ。これでは「依頼者」に申し訳が立たない。「客」への対応も変わる。そもそも誰が?今回のデスゲームはゲーム形式で人を減らす手筈だから、参加者同士のアクシデントが無いよう徹底した安全対策のはずだ。いやいやそんなことを考えている場合ではない。いやしかし……遠山はかつてないパニックに陥っている。
そこへ、彼を正気に戻す着信音が鳴り響いた。部長からだ。
「遠山、現場はどうだ?」
「……報告の通りです。残念ながらご臨終です」
「そうか……それで今後のことだが、まず死体の処理及び隠蔽。そして予定通り明日のデスゲームは行い、欠員については補充要因を手配する。それじゃ、まず死体処理の手続きを頼む」
「ちょっと待ってください部長!今回は特例として延期するって話だったんじゃ……」
「上での協議の結果だ。日程と客の都合を考えた結果強硬するとのことだ」
「……分かりました。早急に処理します。……失礼します」
電話を切り溜息をつく。改めて目の前の死体に目を落とす。
「誘拐された初日にずいぶんくつろいでんなコイツ……」
現場班に詳細を聞くため、遠山は部屋を後にした。今日は残業だな……と、小さな声で呟いた。
~~~~~~~
現場からの見解をまとめると、
・鍵は閉まっていた
・部屋内に監視カメラは設置していなかったので何も状況が分からない
・他の部屋も確認したが、特に変な様子は無い
・後ろから鈍器のようなもので殴られたことが死因
とのことらしい。もちろん警察を呼べば捜査は進展するだろうが、いくら上層部とつながりがあるとはいえ大々的な捜査をしたら潰れるのは我が会社だ。
それに、今は犯人を捜している場合じゃない。
「まずは事態の収拾から始めましょう。優木サクラの死体に防腐加工をします。死体処理班に連絡は取れますか?」
「え、ああ……やってみよう」
「合わせて部屋の掃除もお願いします。現場の保存等は一切しなくて大丈夫です」
「わかったが、いいのかい……?犯人への手がかりなども無くなっちまうんじゃ……」
「我々の仕事はデスゲームを完遂させることです。死んだのは標的ですから、まあ極論早いか遅いかというだけの話です。もちろん明日以降同じ事件が起きてはいけませんから警備を強化する必要はありますが……」
「た、達観してるね……流石は次期チーフだ。よし、いっちょやるか」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
続けて、遠山は部長に電話をかけた。
「あ、もしもし部長。お疲れ様です。先ほどの件ですが、補充要因の方と連絡は取れますか?」
会場を後にし、遠山は企画運営課に戻っていった。
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