序章―④
「どうだ、遠山」
吉田は口から煙を吐きながら言う。
「もう3年目になるのか。少しは慣れたか?」
「まあ……ボチボチですよ」
煙草に火を点け、揺れる煙を眺めながら、遠山は回顧した。
始めの頃は上手くいかなかった。
始めて見る死体。殺人行為の数々。なにより、如何にして殺すかという企画書を自分で考え、発表することそのものが拒絶反応として現れた。何度職場のトイレに嘔吐したか分からない。
「殺し屋として、少しは板についてきたようだな」
吉田は笑う。
殺し屋……
そう、殺し屋なのだ。
最初は偽善の心を持てばいいと思った。仕事で取り扱う標的はいじめっ子・パワハラ上司等々社会で淘汰されるべき人物だ。
なら、それらを殺すのは社会貢献だ。そう思った。
だが、そうでは無かった。いじめのリーダー格の子が泣きながら親の名前を叫んだ時、パワハラ上司の子どもがまだ5歳ということを後始末で知った時、どうしようもない虚無感が遠山を襲った。
人殺しは社会貢献になるはずがない。善行であるはずがない。確かに連中は殺されて然るべき行為をしたかもしれない。しかし、それを裁く行為が正しいと言い切れるはずがない……
そんな悩みに苛まれる中、吉田が遠山にかけた言葉が「殺し屋たれ」というものだった。
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「我々は殺し屋だ。人を殺し、飯を食べている。それだけだ。殺しに善も悪も無い。結果として死があり、過程として殺しがある。むろん我々は地獄に落ちるだろう。だが、それだけだ。殺し屋とは、そういう生き物なのだから」
「まあ元々一般人だった君には重い話かもしれないが、それでも、入社したのは君だ。大人ならば自分の決断に責任は取らないとな。それに……」
「あの時の君の眼は、濁り輝いていたぞ」
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「……あの時の部長の言葉が無かったら、今頃僕はここに居ませんよ」
「嬉しいことを言うねぇ、部長冥利に尽きるというものだ」
以降、遠山は吹っ切れたように働き、今に至る。
「しかし、濁り輝いていたとは何だったんですか?僕そんな眼をしてたんですか?」
「なんだ、まだ自覚が無かったのか……いずれ分かるよ」
「……?」
吉田が吸い殻を捨てる。
「なあ遠山、そろそろお前がメインで案件をこなさないか?」
「僕が……?」
「ああ、業界未経験とは言えもう3年目、ここ最近は私のサブで業務をやらせたがもう問題は無いだろう。企画運営部は人手不足が顕著でな。君にはチーフとしてやってもらいたいのだよ」
いきなりの昇進の話が出た。確かに企画運営部は今部長がチーフ兼任である。去年度末付けでチーフが異動になったので仕方なく部長が兼任している状況だ。
「僕でいいんですか……?時期チーフは鴨志田さんかと思ってたんですが……」
「まあ古株ではあるが、あいつの担当は内勤だ。企画運営部はある時は現場ある時は営業に走る仕事だ。対外コミュニケーション能力に乏しいやつでは荷が重い」
吉田はニヤッと笑った。
「それに、元々私はお前を次期チーフとして育てていた。内容が殺しに関係するだけで、業務内容はサラリーマンの延長だからな。だから社会人経験がある遠山君、君が適任なんだ」
思いがけない提案に遠山は驚いたが、すぐに覚悟は決まった。少し深めに息を吸う。
「やらせてください!」
「クク……いい返事だ」
遠山の瞳は、やはり濁り輝いていた。
序章 完
デスゲーム0日目へ続く
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