序章―③

 3年目ともなると、目の前で惨殺されていく女子高生達を見ても落ち着いていられるようになる。慣れとは恐ろしいものだ。


 デスゲーム企画運営部、いわゆる企画運営チームは常に人手が足りず、遠山は1年目から現場を任されていた。人手が足りないわりに月の残業時間は5時間行くか行かないか程度なのは流石と言ったところだ。ホワイト企業最高。


 遠山は部長の吉田の元、デスゲーム企画運営部の仕事を日々学んでいった。デスゲームの依頼者はいじめ被害者がメインと面談時には言われたが、もう一つ大きな依頼主がいた。死体マニア達である。

 彼ら彼女らは人間が死にゆく様を見ることが趣味で、デスゲームは連中の嗜好に適任、という訳だった。とりわけ富豪が多いので、デスゲームの映像は高く取引される。いじめ被害者達はリピーターになることがほとんど無いが、富豪たちは気に行ってくれれば何回も金を積んでくれる。デスだよにとっては上客この上ない。デスゲームを眺めてワイングラスを揺らす富豪は現実にも存在していたのだ。


 よって、遠山はデスゲームを開催してほしい依頼主と富豪どちらにも満足してもらえるゲームを企画する必要がある。依頼主からはなるべく苦しめて殺してほしい、疑心暗鬼にさせてほしい、一気に複数人殺してほしいなど多岐にわたる。富豪側は毒殺、焼殺、窒息、水死、撲殺、斬殺など殺し方に注目する意見が多い。また、女子高生のみ、男子大学生のみなど対象の指定も多々ある。

 特に多いのは醜い人間ドラマが見たいという要望だろうか。


 これらの意見を取り入れ、予算や実現可能性が高いデスゲームを企画し実際に運営するのが遠山及び企画運営チームの仕事だ。


 片っ端からデスゲームを取り扱う作品を見て学び、過去の資料を読み漁り、古今東西様々なデスゲームをインプットしていく。


 そして得た知識を元に依頼者とのヒアリングを重ね、顧客のニーズを取り込み、計画案を出してはチームで協議し修正……を繰り返しデスゲームは生まれるのだ。


 デスゲームが始まってからも仕事はある。と言ってもポピュラーな被り物をしてルールを説明する訳ではない。そういった黒幕的ポジションは実行チームの担当だ。


 まず経過観察。企画したデスゲームに不備は無いか、不足な事態は無いかをチェックする。こればかりはやらないと分からないので緊張の瞬間である。ちゃんと想定通りターゲット達が惨めに死んでいく様を見て、企画運営チームはようやく一安心という訳だ。


 あとは滞りなくデスゲームが完遂されれば、締め作業だ。映像チームから受け取った編集されたデスゲームの映像を顧客と依頼者に送る。こうして一連のデスゲームは幕を閉じる。


 何度かターゲットがしぶとく生き残るせいで計画にズレが生じることもあったが、実行チームの補佐班がサクラとしてデスゲームに参加することで大幅な問題が起きることは無い。大がかりなセットを用いた時は機材トラブルがつきものだが、生憎この会社の設計チームは優秀らしい。これまで機材トラブルが起きた回は一度もない。


「もっとも、機材トラブルを起こされた時はあったがな」


 部長の吉田が笑う。


「無理やり配線を切って殺人マシーンを止めたやつがいてな。あの時の設計チームの連中の慌てっぷりは中々に滑稽だった。あの事件連中に火がついて、今じゃつけ入る隙すらないほどになってしまった」

「それはぜひ見て見たかったですね、あの人たちのプロフェッショナルぶりは常軌を逸していますから」


 入社してから今までのことを想起しながら、遠山は部長と目の前で死んでいく女子高生を眺めていた。目の前と言っても、モニター室からの眺めだが。


 今日のゲームは遠山が立案し最後まで担当したものだ。18人のターゲットを2組に分け、ペア同士でカードゲームを用いて戦う、といったものだ。勝者はセカンドステージへ、敗者は首輪から毒針が刺さるというシンプルなゲーム。カードゲームも至極単純で、1~5の数字が書かれたカードを3回出し、数字が大きかった方が勝ち。3回のうち2回勝てば勝者というものである。

 特殊ルールで1は5にのみ勝てる設定が、顧客が欲した心理戦にいい味を出している。


「やだ……死にたく……死にたくなぁ……っ!!あっ……がぁ……うっ………」


 また一人、敗者が決まった。モノと化した死体が、横のプールに捨てられる。

 今回はターゲットが水泳部、かつ顧客から水着の要望があったので折衷案として死体遺棄場をプールに設定した。ゲーム会場は広大なプールの真ん中にセットしてあるため非常に効率よく死体処理が行える。


「依頼者は水泳部でいじめにあっていた少女、か」

 吉田がポツリと言う。

「水泳部の合宿がビーチから地獄のプール施設という訳だ。ビーチでバカンスなら顧客が望んだ水着も見られるし、少女がいじめられた中にプール内での窒息や衣類貴重品等をプールに捨てる等々、少女からしてみれば因縁のある場所ということか。遠山、感心したぞ」

「いえ、部長やチームの皆さんのおかげですよ」

 少し遠山は照れ臭くなった。モニター室の和やかなムードとは裏腹に、最後のペアの勝負に決着がつき、9体目の死体が水面に浮かぶ。


「次は部長がセッティングしたゲームですね。このまま上手くいくといいんですが……」

「……」

 吉田の神妙な顔つきを、遠山は見逃さなかった。

「……部長?」

「ああいや、すまん。次のゲームが始まるのは30分後か…遠山、一服しに行くぞ。付き合え」

「急に強引ですね……了解です」

 笑いながら二人はモニター室を出る。画面には、モノ言わぬ死体となった女子高生達がぷかぷかと浮かんでいる様子が映し出されていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る