ギョプサル

Take_Mikuru

ギョプサル

由香里に見つめられ、俺はサムギョプサルを吐き出してしまった。

サムギョプサルの切れ端が由香里の口元につき、俺は申し訳なく思いながらも

「かわいい」

と呟いてしまった。

どうしていいか分からず、そのまま由香里を見つめていると、由香里は全く表情を変えぬまま、ゆっくりと口元のサムギョプサルを指につけた。性的な興奮までもを感じ始めながら見ていると、由香里は俺を見ながら、そのまま指を口に突っ込み、ゆっくりと口内に押し込んだ。

「、、、、、」

興奮のあまり頭が真っ白になってしまい、何かしないといけないと思いながらも俺はただただ呆然と由香里を見つめ続けていた。

由香里はそんな俺を見ながら、ゆっくりと指を口から出し、舌で自分の唇を舐め回した。由香里の指からはサムギョプサルが綺麗さっぱりなくなっていた。

何故か由香里はそのまま俺を見つめ続けてくる。本来、このような場合、キャー!なり、うあああ!なり、何かしら激しい嫌悪感を示す言葉を発しながら俺をビンタするなり、そのまま立ち上がって帰るなりするはずだろう。でもこんなことを一人でグルグル考えてる今も、由香里はしっかり俺の前に座り、俺を見つめている。由香里の表情からは一切嫌悪感が読み取れない。ていうかあまりにも表情が変わらないため、何かを感じているのかどうかすら分からない状態だ。ひょっとすると、あまりの嫌悪感に無の境地に達してしまったのかもしれない。でもその場合、なぜ彼女はサムギョプサルを食べたのか。しかもあんな官能的な方法で。指につけたサムギョプサルを口で吸い込んで舌舐めずりしてみせてきたんだ。これが無の境地に達した人のとる行動なのだろうか。



まだ見られている。

流石に俺が恥ずかしくなってきた。

ティーン雑誌の表紙を飾ってそうな程の美人と5分間も見つめ合うのは思いのほか照れる。彼女はうんともすんとも言わないし、俺も脳内で言葉がグルグル回っているだけで、彼女に対しては何も出てこない。このまま座っていたらどうなるのだろう。彼女から助け舟を出してくれたりするのだろうか。俺の中であんまぁ〜い期待が広がり始めてきた。



あああ、かわいいなぁ〜


でも気まずい、、、




「どうしたの?そんなに捲し立てちゃって」





「さっきからずーっと一人でしゃべってるよぉ〜??由香里も何か返さなきゃって一生懸命考えてたんだけど、何かよく分からなくなってきちゃった、ごめんね」


由香里は照れ笑いをしながら顔を横に傾け、両手を縦に合わせてこちらに見せてきた。



「サムギョプサルのことは気にしないで、由香里いつも上手く噛み切れないから、宏平君が噛み砕いてくれたので丁度良かった、次からは全部先に噛み砕いといて欲しいなぁ〜」


 

この子何言ってんだ、、、


「あ〜、また1人で話してる〜」


 どうやら俺の心の声は全て漏れていたようだ。

 ならこの際に言ってしまえ。


 

 俺は由香里のことか好きだ。

 俺は由香里のことが大好きだ。

 心の底から結婚して欲しいー!!!


 

「え?」



 

由香里が怪訝そうな表情て俺を見つめてくる。


 

だから、

俺は由香里のことが大好きだぁー!!!

死ぬほど大好きだぁー!!!

頼むから結婚してくれぇー!!!



 

ガタッ


 

長らく合っていた目線が外され、由香里はそのまま席を立って店を出て行ってしまった。

席が2つしかないこの小さな店内で1人っきりになるのは流石に寂しい。店主もゴマの買い出しでおらず、このまま食い逃げしようかどうか本気で悩んでしまう。



俺は見事にフラれてしまった。由香里は俺が吐き出したサムギョプサルの切れ端は食べてくれるのに、俺の告白は全くもって受け入れてくれなかった。


そんな彼女はとてもとても、不思議な子だ。

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