手摺りにゆるく寄りかかりながらぼんやりと激しく落ちる水を眺めている。流れにしたがって視線を落としていけば、かなりの高さだと実感する。

 落ちたら助からんだろうな、と思う。

 この辺りでは数年おきに人がいなくなる。しかも、たいていがみつからないのもあって、神隠しだとか言われたりもする。俺にとっても他人事というわけでもない。なにせ、遠くからやってきた親戚が三人もいなくなってる。

 これだけ続くと捜索隊や警察の一部からは、一族ごと事件への関与を疑われたものの、そういう日にかぎって皆が皆、アリバイがあったため、少なくとも実行犯ではないというところに今の時点では落ち着いている。

 人身売買組織が暗躍しているのか、神隠しか、あるいは事故か。いまだに真相は知れない。老人は山の神様だとかなんだとか言っているが、はてさて。

 滝の最下部。激しくぶち当たる水。事故だとすれば、ここに飲まれたんじゃないかという意見が最有力だ。地元では骨も上がってこないともっぱらの評判だ。

 年下の従弟たちの姿を思い浮かべる。どいつもこいつも、見た目や正確は違うものの、街から来た生意気なやつだったし、さほど親しかったわけでもない。ただ、たまに遊ぶ程度の仲とか情はあったわけで。

 お盆になると、ついつい滝壺を覗きに来てしまう。いるかどうかもわからないのに、おかしな話だ。

 聞き覚えのある足音。振り向けば、従姉のユリが立っている。

「よっ」

 元気な声に、ああ、と応じると、ユリは隣に寄り添ってくる。

「どこに行ったんだろうな」

 なんとはなしに呟いた言葉。しかし、ユリはそうとらなかったらしく、

「みんなに会いたい?」

 なんて聞かれる。

「どうだか。みつかればすっきりするかもしらんが」

「そっか」

 それ以上言わずにユリは俺の肩に頭を乗せる。それを受けとめたまま、ただただ水が落ちるのを眺めていた。少しでもバランスを崩したら吸いこまれてしまいそうだなと思いながら、いっそそれも悪くないかな、という気にさせられた。

 不意に、滝の中にか細い五本の白い指が見えた。なんとはなしに俺は手を伸ばそうとして、

「そろそろ、行こっか」

 立ち上がったユリの声で我に返る。

「ああ」

 答えてから再び滝の方を見やれば、白い指先は影もかたちもなくなっていた。

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白い女 ムラサキハルカ @harukamurasaki

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