二
駄菓子屋のベンチにすわりながらスイカバーをかじる。目の前の畑はちょうどよくスイカ畑。いや、これを見てアイスを選んだんだけどね。
まあ、なんにしろ……ヒマだ。家にいた大人たちは、親しかった人のお葬式でみんな出かけた。僕も来いっていう言われてたんだけど、亡くなった人とあまりかかわりがないし、つまんなそうだから断わった。おじいちゃんとおばあちゃんは、僕一人を置いていくことをしぶっていたけど、大丈夫だよ、って強くうったえた。
そんなわけで自分で望んで残ったってわけ。ただ、……やっぱりヒマだなぁ。
生まれてから今日までの十四年とちょっと。何度もおじいちゃんとおばあちゃんの家にやってきていた。僕たち家族と同じように休暇にやってくるいとこたちは、今回は来ていないし、かといって近所に顔見知りくらいはいても、友だちといえるほど親しい人はいない。かといって、今から仲よくなるあてとか気持ちもなかった。
つまんないな。そんな気持ちのまま、スイカバーを食べ終えた。きれいになった棒には、なにも書かれてない。っていうか、スイカバーってあたりはずれとかあったっけ? あたった記憶はないけど。
そんで、またやることがなくなっちゃったわけだ。いっそのこと、スイカドロボウでもしようか? ウソウソ、そんな度胸、これっぽちもないよ。
涼しい風が右肩をなでた。振りむくと、いつの間にか女の人が座っていた。
とにかく白い。つばが広い帽子。長い髪の毛。肌。長袖のワンピース。手袋ごしにつかんでいる日傘。サンダル。そのどれもこれも真っ白だ。
目が合うと、どこか気安げに頭を下げられる。
もしかしたら、知りあいなのかな? けれど、ここまで目立つ人をおぼえていないというのはむずかしい気がする。
それにしても……。丸く吸いこまれそうな目。ととのった鼻のすじ。薄く少し不健康そうな唇。どれもこれも、目を引く。
女の人はなにをするでもなく、じーっと僕を見てる。近くでアブラゼミが鳴いている。口に残った甘さが少しくどくなってきた。
ふと、女の人がにぎりこんだ手をさしだしてくる。なにか持ってるのかな? そう思ってるうちに、女の人の手は僕の目の前まで広げられて、パッと開かれた。中には……なにもない。ただただ、白い指の先がさしだされている。
なにがしたかったんだろう? 僕の疑問に答える気があるのかないのか、女の人がゆっくりと立ちあがった。その間も、白い五本の指は僕のほうにむけられたままだ。
えっ、もしかしてそういう? ようやく、女の人が考えているらしいことをさっする。でも、ホントにそれでいいのか? そんな僕の前で、女の人はキョトンと首をかしげた。
覚悟を決める。立ちあがる。女の人がほほえんで、より手を近づけてくる。やっぱり、そういうことなんだ。カクシンして、手をとった。思いのほか冷たい手。引かれて歩きだす。
スイカ畑と駄菓子屋が遠くなっていく。ちらりと後ろを見やりながら、僕は女の人の隣に並ぶ。
向かうのは山の方だ。具体的にどこに行くかはわからない。けれど、今ここでだらだらしているよりはオモシロいはずだった。
女の人がさしてくれた白い日傘に隠れながら、僕らはゆっくりならんで歩く。これから何があるんだろうと、胸をキタイに膨らませて。
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