第225話 キールのランクが判明する
「ほう、これは珍しい顔を見たものじゃ。生きてるうちにまた出会えるとは思っても見なかったぞ?」
『漆黒』のネーラはこの年老いた魔術師には珍しく表情をほころばせた。
「久しぶりじゃの、ネーラ。あなたがまだ健在じゃと聞いたら来ないわけにはいかぬじゃろう?」
そう応じたのは『翡翠』のジルメーヌだ。
この間出会ってから何年たっただの、変わった変わってないだのの応酬がひとしきり行われているなか、英雄王が割って入る。
「おい、ネーラ、いつまでやってるんだよ? もういい加減そんなことはいいだろう? それよりもだ。あの二人はよくやってくれたぞ? お前の見解はどうなんだ? やはり、あの2人は相当の素質を持ってるのか?」
英雄王が言っているのはもちろん、キールとミリアのことだ。
今、英雄王はミリアとキールにエルルートの大地へ
一応盾役として、クリュシュナを抜擢したが、すぐに連携がうまく行くとは限らない。出来れば少し予行演習を兼ねた旅を間に挟みたいところだが――。
「ああ、あの2人か――。そうじゃな、素質という点に関して言えば、
と言うのがネーラの見立てであった。
事実この見立てはニデリックと同じものだった。
キールの素質やクラスは紛れもなく現在世界最高であると言っていい。しかし、なにぶん魔術師に目覚めてからの年月が短すぎる。キールが扱う術式は独特のものであって、現代魔術式からは外れている。おそらくのところこの術式を操つるのには何かしら隠された要因があるのだろうが、今それを追求したとしても、キールは決して打ち明けはしないだろう。そしてそれはミリアも知っていることかもしれないが、彼女もまたキールの秘密については決して洩らさないだろう。
実際、キールが使う術式の正体が何なのかを知ったところで、おそらく、現代魔術師たちには発動させることすらできないだろう。
それは、キールのことを知っているミリアが、彼の扱う術式を一切使わないことからも推察できる。
ミリアが扱う複合術式もまた独特のものであるのだが、基本は現代魔術式の応用であるため、やってやれないことはない。しかしながら、おそらくかなりの精度で錬成しなければならない為、現在のメストリル王国国家魔術師の誰もがそれを真似ることは出来ないだろう、と言うのが国家魔術院院長ニデリックの見立てである。
そして実はこの魔術式習得のための鍛錬こそ、最近のミリアの急成長を促している要因なのだ。
現在ミリアは、『魔術錬成術式総覧』という、キールから手渡された魔術書の術式の修練に取り組んでいる。事実、これまでに幾度か使用している『
そして、この魔術書を
つまり、ミリアはそんな魔術師の発明した術式に取り組むことで、精度と練度が急激に成長しているのだった。
「坊主の方は――」
と、さらにネーラは続ける。
「おそらく世界最高と言って差し支えないじゃろう。ただし、それはあくまでも素質という部分においてじゃ――」
ネーラの見立てはこうだ。
キールは高度ランクではなく、その上位ランクの超高度ランクだという事は『判明している』。
実は、英雄王がネーラのところでキールとミリアに魔術師装備を整えさせたのには理由があった。
もちろん、冒険用装備を整えさせることが目的の主たる部分ではあったのだが、もう一つ狙いがあったのだ。
キールとミリアがここで魔術師装備、とくにその相棒となる
実はこれ、現在のランクを知るのに効率的な方法のひとつなのだ。短杖にはそれぞれ「特性や癖」みたいなものがあり、その中の一つに、「ランク」も存在している。
つまり、その短杖を使えるランクが決まっているのだ。
キールが選んだ『
ミリアが選んだ「大地の恵み(=グナーデ・デア・エルデ)」のランクは「上位」だ。よって、ミリアのクラスはすでに判明している通り「上位」であることがここでも証明されている。
「――じゃから、あの坊やが錬成「4」超高度ランクであるなら、現在の錬成「4」魔術師の中でトップランクとなり、ひいては、世界最高の素質保持者という事になるわけじゃな」
と、ネーラは告げた。
「――ですが、彼の錬度はその素質を余すところなく
とは、この場に同行しているニデリックの言葉だった。
「じゃな。あやつの成長はまだ始まったばかりじゃ。言うなれば、春になって大地から芽吹いた木の芽のようなものじゃ。それがどのような木に育つのかは時間をかけてじっくりと見てゆかねばなるまい。木の成長と同じように、じっくりゆっくり育ってゆくのじゃろう」
と、ネーラが話を締めくくった。
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