第224話 この世界でそれに出会うとは


「さあて、どこに行こうか?」

とはキールの言葉だ。

「そうね、まずは一通り王立の建造物でも見て回る? でも、そんなの見たってたいして面白くもないかもね」

と、ミリアが応じる。


 しかし、すかさずもう一人の少女が割って入った。アステリッドだ。

「そりゃそうですよぉ。だってまだこんな子供じゃないですかぁ。建物見たって面白くないでしょう? ねぇ、ハルちゃん?」

「あ、まあ、そうですねぇ……」

「ほら、ミリアさんはホントに子供心がわかってないなぁ。あ、そうだ! まずは商店街でウィンドウショッピングでもしましょう。それで、可愛い服を見つけたら試着したりして遊びましょう。遠い国から来たんだったら、何か見たこともないような服とか、カバンとかあるかもですし――」


 アステリッドが相変わらずの調子でまくし立てる。

 

 なんか初めて会った時から少しキャラが変わってるように思うのはキールの思い過ごしなのだろうか。そういえばいつ頃からかアステリッドは結構活発な感じになったような気がする。


 とりあえずのところ、ハルのことについては、遠い国から「お忍び」でやって来た王室のお客様で、今日は王都内の案内をしてやってくれと英雄王から頼まれた、とでも言っておいた。

 結局、彼女がエルルート族だというのは今はまだ伏せておこうとミリアと意見が一致している。


「――君、魔術師なんだね?」

不意に涼しげな声色でハルに話しかけるのは他でもない、クリストファーだ。


「え、ええ、まあ……」


 キールとミリアが一瞬ぎくりとする。

(そういえばもう一人、ある意味空気が読めないやつがいた――)

と、二人は思ったが、次に続く言葉は想定以上に拍子抜けだった。


「ふうん。まあいいけど――」

「ク、クリス? 彼女は一応国家の来賓らいひんなのよ? もう少し、その言葉を――」

クリストファーのあまりにぶっきらぼうな物言いにミリアがヒヤリとして苦言を呈する。


 が、それを当のイハルーラがさえぎった。

「いや、別に構わないよ。ボクも自然体の方がやりやすいしね。変に改まってもらっても楽しくないから」


「ほら、彼女もこう言ってるし、大丈夫だよ。今日はそのつもりで君もいたんだろう? だったら無礼講で行く方がいいよ」

というクリストファーの言い分もまあ、あながち間違ってはいない。それに当のハルがいいと言ってるんだ。だったら目一杯、「友だち」として向かい合った方がいい。


「そうだね。クリストファーの言うとおりかもね。ハルも来賓としてじゃなく、友だちとして接したいってことだよね? じゃあ、今日はその辺は無しということで」

と、キールがまとめた。


「キールさん、さすがですね! 今日が始まる時にこんなことで揉めてちゃ楽しめないですからね! さあ、いきましょう!」

アステリッドはそう言うと、ハルの手を引いて駆け出した。


「ったく、何でもキールさんなんだよな、アステリッドは。最初に言ったのは僕なんだけどね?」

「あら、珍しく主張するのね? あなたはそういうとこあまり気にしない方だと思ってたけど?」

クリストファーの苦言にミリアが応じる。

「まあ、別にいいけどね。君さえわかってくれてればそれでいいから、さ」


 そう言って自嘲気味に笑うクリストファーは横目でミリアの様子をうかがう。

「も、もう、またそんなこと言って。ほら、二人とも、早くいくわよ!」

さすがにどきりとしたミリアは慌てて取りなしてアステリッドとハルの後を追った。


「じゃあ、行きますか、キールさん」

「そうだね、行こう」

そう言って二人も先に行ってしまった女性陣を追った。



 前々から感じてはいるけど、やっぱりクリストファーってミリアのことを意識してるように見えるなぁ、と、キールは思いながら今日一日を過ごしていた。


 結局、商店街のあちこちの暖簾をくぐったり、ショーウィンドウをのぞいたり、果ては、何着も着せ替え人形のように試着しまくって、アステリッドはそのうちの数着をその場で買い上げて、あとで王宮の届けるようにと指示をしたりしていた。

 その後は、露天商の通りへ行って買い食いを数点、そして極めつけはこれだ。


「わぁ~! これこれ! ほら、ハルちゃん、見て見て。この底のところ、ほら、ベリーがいっぱい詰まってるよ!」

「これ、この赤いの、木の実なんですか?」

「えっとね、ラズベリーにストロベリー、あ、あとクランベリーも入ってるわ! そしてその上にはたっぷりの生クリームとバニラのアイスクリーム! そしてさらにホイップクリームにピッキーとバスコ! ハルちゃん、これ全部一人で食べるんだからね?」


 キール――正確に言えば、キールの前世、原田桐雄の知識だが――はそれが何かを知っている。いわゆる、ストロベリーパフェというやつだ。


 しかしながら、こんな店、いつの間に出来たのだろうか? 王都というのは本当に摩訶不思議まかふしぎな場所だ。それまで見もしなかった店がいきなり現れる。


(私、最近知ったお店があるんです! そこへみんなで行きましょう!)


 と言ってハルの手を握って駆け出したアステリッドを追ってきたため、もうどこをどう通ってこの店にたどり着いたのか、キールにはわからなくなっていたが、アステリッドの話によると、最近発足したアステリッドの「メンバー」の一人が見つけてきたのだということだった。


 なんなのだ、その「」って。

 前に一度聞いてみたのだが、「メンバーの名前は絶対に口外しないという掟になっているんです――」と言って、にやりと笑ったきり答えてはくれなかった。

 そんな掟、どうして作った? と、いぶかしく思ったが、それ以上突っ込むのも無粋ぶすいというものだというぐらいはキールにもわかる。


 まあいずれにせよ、だ。

 キール自身前世でも数度しか食べていないストロベリーパフェに、この世界で出会えるとは思ってもみなかったため、それはそれでうれしいハプニングでもあったから、今日のところは良しとしよう。


 さっそく、自分の分のその縦長のグラスに手をかけると、長~いスプーンを駆使して、思う存分に味わったのだった。

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