第205話 シンパシー


 「白い部屋」から戻り、キールは考えを整理していた。


 まず、バレリア文明と地球の文明は酷似しているが別のものだということだ。つまり、地球の科学の知識で突破できる問題もあれば、そうでないものも存在し得るということになる。

 この点は次回以降の遺跡探索の際に常に念頭に入れておかなければならないだろう。


 次に、バレリア文明は正真正銘「この世界の過去の文明」だということだ。

 それが何かしらの原因で「滅亡した」のだろう。このことはバレリア文明の高度な科学技術がこの世界に伝わっていないことから明らかである。つまり、バレリアが滅んだあと、現生人類が誕生したことになり、この両者の間には重なり合う期間が非常に短かったか、あるいはまったく重なっていないかであろう。少なくとも現生人類がある程度の知能を持つまでの間に「接点があったとしたら」、何かしらの痕跡が残っているはずだからだ。だが、バレリア文明とのつながりはあの遺跡しかない。これは、現生人類がバレリア文明人たちから何も口頭あるいは手渡しでは受け取っていないことを表している。


 また、「この世界」の形態はやはり球体だという事が明らかになった。別の過程で生まれた世界だといわれても、太陽や月の周期も地球と同じであることに逆に違和感すら覚えるが、辿るべき道筋をたどれば、世界は同じような形となるということなのかもしれない。


 そしてそのことから明らかになったのは、この大陸の周りを囲む未踏地のさきには何かがあるか無いかいずれにしても、まだいまだに明らかになっていない場所が存在しているということになる。

 この大陸プレートの東の端へ向かっても、西の端に繋がっていないことから、このことが明らかである。

 あと、この大陸プレート上に存在するどの地域も同じ四季をたどっているという事実から、この大陸プレート自体は南半球もしくは北半球のどちらかに位置しており、また、北極及び南極の各極点はいまだ発見されていないということも明らかとなった。


 様々なことが明らかになった今回の「会談」だったが、いずれの事実も、今すぐキール自らが確認して回ることは不可能なものばかりだ。


 この世界の文明は、前世の世界である「地球」の2022年に比べればあきらかに遅れている。

 それは科学的にという意味においてであるが、逆に魔法というものを軸としてみれば、こちらの世界の方が進んでいることにもなる。


 バレリア文明の遺物たちが仮に地球の発展と同じ経路をたどり絶滅したものであり、その後新たに現生人類が誕生したと仮定し、その発展の過程で「魔法」を手に入れたとすれば――。


(この世界の方が進んでいる、ということなのか――?)


 キールはここまで考えを整理した結果、やはり結局は堂々巡りになるだけで終わりのない「仮定の渦」に飲み込まれてゆくだけだと悟った。


(いずれにしても確認のしようがないことばかりが判明したところで僕たちが今を生きていかなければならないことに変わりはない。今後、エリザベス教授の発見や研究がどこまで進むかによって、わかってくることもあるだろうけど、僕たちだって永遠に生きられるわけじゃない。この世界の人の寿命も地球の人間と大して変わらないんだから――)


 だが、ただ一つ違う点、「魔法」の存在、そしておそらくそれと無関係ではない「魔獣や魔物」の存在は、科学的に進んでいた原田桐雄の前世の記憶をもってしても対応できるかどうかかなり怪しい。


 この点について、キールやアステリッドのような、魂魄記憶再生術式を施されたものたちは常に意識しておかなければ、誤った判断を下す恐れがあるということだ。


 その前世の記憶や知識を傘にして身を守ろうとすると、逆に窮地に追い込まれてしまうことになるかもしれない。


 それは、「バレリア文明が滅亡している」という事実から導き出される一つの教訓だと、キールは心の内に止めおくことにした。

 そしてこのことはアステリッドにも伝えておかなければならないだろう。



(そう言えば、デリウス教授の前世の記憶ってたしか、だって言ってたような――。地球で言う海の時代って言えば、大航海時代のことを指すんだろうけど、デリウス教授の前世も地球なのかなぁ――)



 そんなことがふと、キールの頭をよぎる。

 もし仮にそうだとすれば、この大陸プレートの向こう、未踏地の先へ進むにはデリウス教授の「前世の記憶」が必要になる時が来るのかもしれない――。


 ただ、デリウスはいまだ前世の記憶の開放を躊躇ためらっているようでもある。


(今度さりげなく聞いてみよう――)

とキールは思った。

 こういうところがこの青年のいいところでも悪いところでもあるのだろう。

 おおよそ、人の都合つごうというものを基本的にはあまり考慮に入れず、直線的直観的に行動を起こす習性がある。


 キール自身、なんとなくだが『火炎ゲラード』にシンパシーを感じてしまったり、『疾風リシャール』にも同じような感じを抱くし、そう言えば『英雄王リヒャエル』にも似たような感覚を覚えている。


(なんか、あまり気味がよくないんだけどなぁ。あの人たちとなんとなく似てる自分がいるような気がする――)


 その点、『氷結ニデリック』とだけは合わない感じがしているのもまた事実なのだ。

 

(――ということは、なんだろう)


 キールは次の話すべき対象ターゲットに狙いを定めていた。  







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