第204話 多元並行世界というご都合主義理論は実は真理かもしれない?


 神ボウンの話、つまり、この世界の構造というものを深く掘り下げてゆくとどこまでも結論が出ない話が続いてしまう恐れがあるため、ここでは必要な部分をかいつまんで要約しておくことにする。


 まず第一に、キールたちのいる「この世界」と、地球とは「同一線上にある」世界ではないということを念のために再度宣言しておく。


 簡単に言えば、我々の住んでいる世界の過去や未来がキールたちの住んでいる「この世界」であるという設定ではない、ということだ。


 では、時間的にはどうなのか? と思われるのが第二の疑問だろう。


 つまり、「この世界」と地球の時間についてだ。


 この点、筆者はすでに一つの見解を示している。

 前項において、『時の流れは止められない』という普遍の原理を提示している。

 つまり、キールの前世、原田桐雄が死んだのは、キールが生まれる前の話であるし、アステリッドの前世、藤崎あすかが死んだのも、アステリッドが生まれる前ということだ。


 こう考えると、「この世界」の「今」は、少なくとも地球で言うところの西暦2022年より「後」ということになる。

 ただ、どのぐらい「後」であるかは今のところ明かさないでおくことにする。


 一つ言えるのは、時間の流れは不可逆だが、進む速度は一定であるとは限らないということだろう。


 このことは、原田桐雄と藤崎あすかは西暦2022年に亡くなっているにもかかわらず、キールとアステリッドが生まれたのに2年も差があることからも推測できうるかもしれないが、転生が決定し、ボウンの白い部屋へいざなわれるのが、死の直後だという設定であるとは限らない。そこは一応断っておくことにする。


 だとすれば、どうして、「コンピュータ」や「電気」など、地球上に存在していたものがこの世界にも存在しているのか、という疑問が次に出る。

 これが前項のキールが神ボウンに問うた質問だ。


 これに対して、神ボウンは、こう答えた。


『すべては別々の世界で一つの世界でもある』


 そして、


『バレリア遺跡に眠るものと地球上にあったものは全く別のものだ』


とも言っている。


 要は、

『それぞれが別の世界で辿るべき道筋をたどった結果、同じような原理に基づいた発見があり、発展があった。結果として、同じようなものが生み出された』

ということだ。


 よって、バレリア遺跡にあるものが地球にある「コンピュータ」と同じような仕組みで稼働するものだとしても、それは「地球上に存在したもの」の未来の姿ではないということだ。


 

 ここまで、明らかにしておく方が丁寧であると感じるため、ここに記しておくこととした。


 それでは本編へ戻るとしよう――。



******



「わかったか? そう言うものなのじゃ」

と神ボウンが説明を締めくくった。


「ふうん。なんか、ご都合主義的な設定だなぁ――」

とキールはふたもないことを言う。

「――まあいいや、とりあえず、「この世界」が地球じゃないってことは納得した。でも、同じように月があったり太陽があったりするってことは、宇宙もあるってことだよね?」


「もちろんじゃ、海もあれば砂漠もあるし、太陽系もあれば銀河系も存在しとる」

「――ってことは、「この世界」も球体ってことだよね?」

「もちろんそうじゃ」

「なら、つまり、果ての地の向こうにも何かがあるってことだね?」


「も……、あ、いや、それは分からん。何があるかはここでは答えないでおくことにする。何もないかもしれんぞ?」

「え~? どうして教えてくれないのさ?」

「それは――、そうじゃな、今は答えられん。お前たち「この世界の住人達」がたしかめるべきことじゃからのぅ」


 そう言って神ボウンは言葉をにごした。

 キールは答えられない理由が他にあるかもしれないと思いつつも、やはり、これ以上突っ込んでも答えてはもらえないだろうと思い、追及することは止めた。


 ただボウンはとても大事なことを言っている。つまり、普遍的な原理というものは基本的には「この世界」も地球と同じだということだ。

 たとえば酸素。

 生物が生きてゆくには欠かせないものだ。これも同じように存在しているのだろう。

 しかしそうなると、一つ、どうしても看過できない原則があることにキールは気づいてしまった。


「魔法――、そうだ、魔法はどうしてこの世界にはあって、地球にはなかったのさ!?」

「ほう、いいところに気付いたの?」


「ボウンさんは言ったよね? 前世の僕、原田桐雄が質問した時、地球には魔法は存在しなかったって――」

「うむ。確かに言った。よう覚えておったのぅ。あの時はそう答えるのが妥当じゃと思ったからのう、そう答えた。厳密に言うと、魔法はどの世界にも存在しるのじゃ」


「へ? 地球でも魔法は存在しているってこと?」

「まあ、厳密に言えば、存在はしとる。じゃが、お前の前世、原田桐雄が生きとった時代に魔法は存在しておらなんだ――」


、だって?」

「ああ、、じゃ」


「ってことは、あの地球の未来には魔法が存在しているかもってこと?」

「可能性の問題じゃが、ない、とは言い切れんの。それも含めてすべてがそれぞれの世界の発展なのじゃ」


「つまり、ゼロではないけど、生まれないかもしれない、どうなるかはその世界の流れ次第という事なんだね?」

「ほうほう、ちゃんと理解しとるようで何よりじゃ。神候補に選んで正解じゃったわ」


 つまり、世界の行く末次第でなにもかもすべてが変わるということだ。そしてその選択は日々毎日のその世界に住む生物ものだけではなく、その世界に存在するすべてが原因となり、結果が生まれる、ということなのだ。


「――バレリアは滅んだんだね……」

キールは寂しげに質問した。

「そういうことじゃな」

と、ボウンもまた静かに答えた。

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