第202話 一つの結果、新たな挑戦へ


 そのあと、エリザベスはこの装置について詳しく説明を始めた。


 最初の試作機から数えると、実に5代目にもなるこの装置は、第一試作機からは大きく形を変えることになった。


 コイルの形状は直方体のものになり、これが計4つ一枚の板の対角線上に配置されている。その板の中心には円盤が取り付けられていて、その円盤にも4つの磁石が等間隔に取り付けられている。そしてその磁石とコイルとの距離はすれすれの位置になるよう調整されていた。

 ハンドルを回すと、その中心の円盤が回る仕組みだが、その回転の速度はいくつかのギアを経ることで数倍にも膨れ上がる。


 つまり、高速で、コイルと磁石が近づいたり離れたりを繰り返す仕組みだ。


 その4つのコイルから出た導線は一つに集約され、装置の先端に取り付けられた「電球」へとつながっている。

 「電球」は根元の金属部分からキノコのような形をした薄いガラスの覆いがかぶせられたような形をしていて、そのガラスの中に細い糸のようなものが繋がっている。


「この中央部分、ここに『竹』の繊維を焦がした炭を使っています――」


 エリザベスは新しい「電球」を英雄王に見せ、その部分、「」の素材に竹を使用していることを説明した。


「先程ご覧いただいた通り、回転数を上げればより明るく発光します。しかし、やはりある一定以上の負荷がかかるとさすがに『竹』と言えどもあのように焼け落ちてしまいます。あとはこのあたりを調整する必要があります。しかし、大方の実験は成功したものと考えております――」

とエリザベスは誇らしげに言った。


 これに対し英雄王が問いかける。

「つまり、一定の速度で回す仕組みと、耐久性の問題を試行することで、より長く光を発することができるようになるよう研究を続ける、そう言う事だな?」


 エリザベスは、

「はい。この装置では人力で回しましたが、今後はこれを水車や風車などで回せば、自然の力で「電気」を生み出すことが可能だと考えています。そうして竹よりさらに丈夫な素材がもし見つかれば、無限に光り続ける「電球」を作り出せるかもしれません――。しかしまずはその前に、この竹素材の電球を実用レベルへ近づける研究をしたいと考えております」

と締めくくった。


 英雄王は満足げな表情で、「そうしてくれ、竹が余っても困るからのう?」と笑って見せた。


 

 こののち、この「ヘア・ライト」と呼ばれることになる「白熱電球」はメストリル王国の専売特許となり、メストリル王国を一気に経済的に飛躍させることになる。しかし、これに伴ってまた新たな問題が発生するのだが、それはまたのちの話だ。


 

――――――



 英雄王と付き添いの3人が帰ったのち、キール一味『学生部』の面々と、エリザベスの研究班だけがこの部屋に残った。


「キールくん、リディー、ミリアさん。ありがとう。あなたたちのおかげで、レーゲンの遺志を受け継ぐことが出来たわ。コイルの謎を解いて新しい技術を手に入れた――。でもね、まだ入り口に立っただけだと私は思っているの」


 キールもずっとそのことを考えていた。

 たしかにコイルから生まれた新しい「光」は素晴らしい技術だ。だが、ただ新しい「光」を生み出すことだけがこの「電気」という力の全てではないように感じる。


「円盤の部屋――、ですよね」

とキールがエリザベスの言葉に応える。


 エリザベスは表情を固めて、一層真剣な目つきになる。

「ええ――。私はあの部屋が何なのか、より興味をそそられている。もちろん「電球」もすごい発明には違いないわ、でも、あの部屋はそんなものじゃない。もっととんでもないものじゃないかと強く思うようになったの――。キールくん、この電球が実用レベルに到達したら、すぐにでも遺跡の調査を再開したいと思ってる。お願いできるかしら?」


「ええ、もちろんです。僕もあの先を見てみたい気がしています。それに、たぶんこれは僕たちの進むべき道だとも思っています。それに――」


 キールは今、のことをふと考えた。この世界は一枚の大陸プレートの上に複数の国家がひしめき合っている。そしてそれが世界の全てだと信じているのだ。その先は果ての世界と呼ばれていて、人類はその先にはいまだ到達していない――。


「それに?」

エリザベスはキールの考えているものにとてつもない拡がりを感じて、それに興味を感じて聞き返した。


「――いえ、そうですね。まずは遺跡の探索をさらに進めることが先ですね。あの円盤の部屋の謎を解くためにもおそらくまだ先に進まないといけないように思います」

と、キールはそのことを口にするのを控えた。

 世界の果ての先のことなど、今言っても自分が生きている間に到達できるものかどうか怪しいものだからだ。


「じゃあ、もっと魔法の練習をして、どんな魔物でも対応できるようにならないとね? 私にばっかり頼られても困るから。魔法の訓練密度も上げないとね?」

と、二人の話を横で聞いていたミリアが割って入る。


「え? マジですか……。今でも充分きついんですけど?」

「何を言ってるのよ。あんたは自分の素質に任せて、複数魔法を連発したり、抑えの効いてない精度の低いただでっかいだけの火球をぶっ放したりしてるだけじゃない。そんなもの、魔術師のやることじゃないわよ」


 ミリアはそう言って、魔術師とは……、などと言いかける。

 

「何の話ですか? なんかそちらだけで楽しそうにしないでくださいよ。私も聞きたいです!」

「魔法の訓練の話よ」

「あ――。じゃあいいです……。キールさんにお任せします」

アステリッドがちょっかいを出してきたと思ったら、藪蛇やぶへびだったと気づき、すごすごと去ろうとする。


「待ちなさい、リディー! あなたもねぇ――」


 そんなやり取りを見ていたクリストファーもふっと笑みをこぼしていた。



 そうして、初めての「エリザベス・ヘア式発光器」のお披露目の日は終了した。



  

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