第200話 エリザベス教授の研究班(2)
クルシュ歴368年3月25日――。
『研究班』は再集結した。
今回はそれぞれのパーツをくみ上げて一つの装置を完成させることが目的だ。そうして最大の実験、「電流」の存在を確認することが目標である。
コイルの筒の中を前後移動する棒磁石の仕組みと、コイルから出ている導線と「試作型電球」の接続が終わり、いよいよ稼働実験を行うところまでこぎつける。
アステリッドの話をまるまる信じるとすれば、これで「電流」というものが生み出され、少なくとも「電球」の銅線部分の中心、「フィラメント」の部分に何かしら変化が現れるはずだ。
「よおし、教授さんよぉ、これでセッティングは完成だ。ここのハンドルを回すと、ここの棒磁石が前後運動する。そうすると、コイルの銅線に「電気」がながれて、この電球の真ん中部分を流れるときに流れが悪くなり、そこに熱が発生する、というわけだな?」
と、大工のウェンダルが確認をする。
「ええ。少なくとも何かしらの変化が現れるはずよ。それをもとに再考察して次回の改良作品制作につなげたいわね」
とエリザベスが言った。
「このハンドルを回すのですが、結構体力がいります。ここは一番お若い方にお願いしましょう」
と言ったのは糸巻機械職人のオリビエだ。
「じゃあ――、クリス、お願いね?」
とエリザベスはクリストファーの背中をポンと叩く。
「まあそういう事になるだろうとは思っていましたが――、わかりました、それではゆっくり回し始めて徐々に早くしていきますね」
そう言ってクリストファーはハンドル部分についている手持ち部分に手をかけた。
「いきますよ!」
そう言うなりクリストファーは取っ手をもってハンドル部分を時計回りに回転させる。
「どうですか?」
「いや、特に何も変わらないように見えるんだが……」
とは鉱物商のリンドだ。
「少しずつ速くしていってくれ――回転が足りないのかもしれん」
と言ったのは鍛冶職人のカーンだ。
クリストファーはさらに勢いをつけて回転速度を上げてゆく。
「ん? なんか煙が出てないか?」
とはカーンだ。
「ああ、本当だ! 煙だ!」
と鉱物商のリンドが応える。
「あんちゃん! もっと、もっとだ!」
とは大工のウェンダル。
「うぅおおおおおお――!」
クリストファーは力を振り絞って最大速度で回転させた。
「あ! 光った! あ……!」
その声はガラス職人のエイラだったが、彼女が光ったと言った直後に、電球の中の竹部分が発火した。
「燃えた!? 火が出たぞ!」
と電球の間近で見ていた鍛冶職人のカーンが思わずのけぞる。
「あ、ああ……、銅線が切れた?」
と言ったのは鉱物商のリンド。
「先生! こりゃどういう事だよ――?」
と、大工のウェンダルがエリザベスに詰め寄る。
「――やはりアステリッドが言っていたことは本当だったのね――」
とエリザベスは目を大きく見開いて、切れた導線部分を見つめている。
「熱よ――。熱が発生してそれにこの導線が耐え切れなくなって焼け落ちたのよ。ほら見て、ここの中心部分に来るまでの間の銅線には特に変化はないわ。でも、この部分は竹でできているから何かが通るには抵抗が生まれる。抵抗が生まれると流れが悪くなって何かしらの現象が起きる。それがこれよ」
とエリザベスはやや興奮気味にまくし立てた。
が、ここに
「例えば大きな川だと特に何も起きていないのに、急にその川が細くなったとしたらどうなりますか?」
と例えたのはクリストファーだ。
「そんなもの、川が溢れるか、決壊するか、いずれにしても何か問題が起きるだろう?」
とは大工のウェンダルだ。
「そういう事と同じなのよ。つまり、銅線が大きな川で、そこを流れた何か、それを水と例えた場合、その電球の中心部分――フィラメントね――そこが急に細くなった川ということなの」
「というと、つまり、この導線の中を何かが流れたっていうのですか?」
と聞いたのは糸巻機械職人のオリビエだ。
「ええ、目には見えないけれど、確かに何かが流れた。だからこういう結果になった。そして流れたものこそ、『電気』に違いないわ――」
「つまり?」
状況がよく理解できていないガラス職人のエイラが聞き返す。
「成功――、大成功よ!」
エリザベスの表情は歓喜に包まれている。
一同もようやく実験がうまく行ったことを理解し、思い思いに喚声を上げたり手を叩いたり、互いにハグをし合ったりしている。
「さあ! これからが大変よ? 今回のことで「電気」というものの存在が判明した。それはいい。でもね、この装置にはまだまだいろいろと問題が多い。ここからさらに改良して、もっと大きな力を生み出す工夫と、耐久性能を上げて行かなくちゃいけない。みんな! これからもよろしくね!」
おお――!
と、一同は喚声を上げた。
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