第192話 これぞ完成型
6日目――。
『竹』の群生地、『ブルーウォール』はもう目と鼻の先だ。
しかし、そのあと少しがなかなかに進まない。
何か理由があるのか、それともたまたま偶然なのかわからないが、ここへきて魔物の出現ポイントからあふれ出す魔物の数が急に増えている。
「何が起きている!」
英雄王が珍しく
「――おそらくは揺り返しではないかと思われます」
「揺り返し?」
「ええ、誘われの森全体の魔物の数が激減したため、それを補うべく通常よりもはやい速度で魔物が生成されているのではないかと――」
つまり、「均衡」を取ろうとしている、ということなのだろうか。
キールはすぐ後ろから前の英雄王へ向かって放たれたその言葉を聞いてそう思った。
魔物たちはある一定の地域に自分たちの密度を保とうとする性質があるとでも言いたげなその意見は、おそらくはこれまでの冒険者としての経験則に基づくものなのだろう。
「――ってことは、結局、潰していくしかないってことだよなァ!」
と英雄王は応える。
まあ、結局はそれしか打開策はないのだろう。
出てくるものを押しのけ、出てくる元を断つ。その上で周囲のものを殲滅するか、もしくはある程度抱えながらポイントを破壊していくか――。
「かあ! 俺はあんまり作戦とか取りたくないんだが、そうも言ってられないようだ。仕方がない、隊列を整えるぞ! リシャールとレイモンドは俺とこい! あとの4人は防御線を張って俺たちから魔物をできる限り遠ざけろ! いいか!? できるだけでいい! 多少は自分たちで何とかする。――リシャール! お前は一点突破を狙って出現ポイントを破壊しろ! お前の速さならできるだろ!?」
「もちろん! やって見せますわ!」
リシャールが
「OK、リーダー、やっと仕事する気になったかい!?」
とはレイモンドだ、にやりと笑って見せ応じた。
「ふん! まあ、これで最後だからなァ! 存分に働くのも悪かないだろう! ――キューエル!
「もちろん、どうぞ存分にお働きください!!」
一同は自分がやるべきことを今一度無言で確認する。
魔物どもをさばきながら、隊列が整いだす。
「よおし! 合図で一斉に突破する! いいか?」
――今だ前進だァ!!
英雄王の号令と共に、前衛3人が一気に駆け出す。
「アッドディフェンス!! リジェネレートライフ!」
キューエルがすかさず3人に持続型防御系魔術式を展開した。
「グラス・ウォ―――ル!!」
ミリアがここ一番最強の防御魔法を展開し、4人の左右から前方へ一直線に透明な障壁を生み出した。
これで、左右から魔物が入ってくることはなくなる。道は一直線に出現ポイントへと続くのみだ。
「なんだこれはァ!? ミリア! 奥の手ってのはこういう時に取っておくもんだよなァ!」
英雄王は左右の透明な壁に感服しつつも、前に進むことをやめない。
「あ、あまり長くはもちません! 急いでください!!」
ミリアがこれに叫びで応える。
「ふん! リシャール! 止まるなよ!?」
「――もちろんそのつもりですわ! ですがちょっと、多いですわね!?」
確かに左右からは気にしなくてよくなったが、その分前方から押し寄せる数が増大することになるのも当然だ。
「若いもんにばかりいい恰好させられねぇよなぁ! 疾風、一旦俺の後ろに回れ、道を作ってやる!」
レイモンドが叫ぶとその大楯を前面に掲げ、腰を落として突っ込んだ。
――シールドバースト!!
ドン! という衝撃音と共に、前方の魔物がまるで地割れのように二つに分かたれ、一直線の道ができる。
「はっはあ! 今度は俺の番だぜぃ、――エバンスラッシュ!!」
英雄王が軸足を踏ん張り一気に加速し左右の魔物の首を跳ね飛ばしてゆく。
「リシャール! ゆけぇい!」
英雄王のそのすぐ後ろから、リシャールが駆けてゆく。
「リヒャエル様! 頭上を御免!」
そう叫ぶと、最後は英雄王の頭上を越え特大のジャンプをする。そうして出現ポイントの上空へと上昇してゆく。
出現ポイントの上空約3メートルの位置に到達すると、そこから真っ逆さまに下降し始めた。
しかしこの時、ポイントに3体の魔物が同時に現れ、頭上のリシャールに向かってその得物を掲げる。このままでは串刺しになりかねない。
「アイス・スラストォ――(×3)!」
レイモンドと英雄王の後方から詠唱の声が響き、次いで、キューエルの声が響き渡る。
「お二人とも! 伏せて!!」
レイモンドと英雄王はまるで水面を叩くと同時に現れる波紋のような速度で、瞬時に反応して身をかがめた。
その頭上すれすれを3枚の氷の刃が
キールが生み出した氷の刃だ。3枚同時に生成し飛ばしたのだ。
そしてその刃は寸分たがうことなく、今ほど出現した3体の魔物の首を跳ね飛ばした。
「おおおおおおお―――!」
リシャールが雄たけびを上げながら、出現ポイントの中心にその手に持つロングソードの刃を突き立てた。数瞬後、
――ドウン!
という衝撃音と共に出現ポイントは跡形もなく吹き飛んだ。
「フハハハハハ! これは痛快だ! ――さあ、次行くぞ!」
――応!
英雄王の
その後のことはもう書くまでもないだろう。
連携の取れた完全なパーティとなった7人に、その後の出現ポイントを破壊しつくすのはそれほど困難な仕事ではなかった。
こうしてついに、『
誘われの森の内部にある出現ポイントは一つ残らずすべて駆除されたのだった。
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