第190話 二つの風と二つの新星
クルシュ歴368年3月27日、誘われの森奪還作戦5日目――。
この日から加わったリシャール・キースワイズの働きは見事の一言だった。さすがに現役の魔術師であるうえ、一国の国家魔術院院長であり、三大魔術師の一人でもあるこの女魔術師の魔法は凄まじかったが、それ以上に凄惨なのはその剣技だった。
「これが、『疾風』――。すごいな。まるで腕が4本も5本もあるみたいだ――」
と、キールは初めて間近で見るトップクラスの魔術師の力量に目を見張った。
リシャールの剣技は『剣魔一体』。
剣で斬りつけ
その動き剣さばきはまさしく、魔物の間を吹き抜ける『一陣の突風』であった。
「ほう! 噂にたがわぬ実力よ! 俺も負けてられねえなァ!」
声の主、リヒャエルの方にキールが視線を移すと、このリシャールの動きに触発されて、英雄王の
もちろん、そんなものは見えない。
だが明らかにそこから吹き荒れる『暴風』を感じてしまうのはなぜなのだろうか。
(やっぱ、この人たち、これまでだいぶんと抑えてたって感じだよなぁ――)
キールは早々に感じていた。
たぶん最初の1日2日は慣らし運転だ。3日目明らかにペースが上がりだした。4日目はさらにペースが上がった。だが、探索の行程は予定よりも遅れている――。
いや、遅らせている、のだ。
絡繰りは実に単純だ。
1日目2日目は言ったっとおり慣らしだった。そのためそれぞれが自身の勘を戻すためを一番に考えて動いていた。3日目、連携を考慮しだした。ミリアと自分が必死に追いすがったが、少しずつズレが生じ始めた。これについて英雄王はキールにだけその種明かしをしていた。
『3日目、ミリアは遅れ始めるだろう。しかし何も言うな。これは布石だ。俺はアイツの父親から頼まれてるんでな。しっかりと育ててやらねぇといけねえんだ――』
と言っていた。約束通り、キールはそのことについてミリアに一言も告げていない。どうして自分には打ち明けたのか聞いたところ、答えはこうだった。
『あ? お前はそんな小細工などいらんだろう? 感じたままに動けばいい。お前は勘がいいんだよ。自分を信じてやればいい』
――らしい。
キールにはその言葉の意味がよくわからなかったが、まあ、自分で思うように動いてよいという免罪符を貰ったと思うことにした。
4日目、ミリアの調子が上がり始める。
だが、やはり遅れていることには違いない。キール自身は気負いもなかったから自由にやっていただけだ。しかし、ミリアはとても悩んでいるだろう。どうして
しかし、まさか英雄王たちがわざとその状況を作っているとは考えもしないだろう。いい意味でも悪い意味でもそこがミリア・ハインツフェルトらしいと言えばらしいのだが――。
キールはそのあたりをよく知っている。
彼女は、賢いが真っ直ぐなのだ――ということを。
しかし、5日目。
とうとう残りあと2日、もしくは3日という段階にきて、英雄王たち4人の連携も最高潮に達し、完全に『現役冒険者モード』に入ろうかという日、さらに戦力を加速させる新メンバーが加わったのだ。
リシャールは今日が初めてとは思えない適応力を見せ、ただ単純に「一人増えた」以上の働きをして見せている。
「さあ! 二人とも! ここからが私たち『暴風』のパーティの真骨頂ですよ! 存分に暴れなさい!」
キールとミリアのすぐ後ろ、パーティの最後列に陣取り戦局を見定めつつ、適時治癒系術式や能力アップの術式を発動している司祭帽、キューエル・ファインが
「「はい!!」」
二人はそろって大きく声を張り上げた。
「ミリア! 今日は自分の思うように動いていいって、英雄王から伝言されてる! 僕に負けないよう、君も頑張るんだね!?」
そう言うなりキールはさっそく詠唱をはじめ、相棒『星屑』の先端から即座に一発の『火球』を発射し、一匹の
「どうだ!? ミリア! まずは一つだ!」
と、
もちろん、英雄王からそんなことを言えとは言われていない。『思うようにやっていい』と言われたからミリアを
おそらくこれで彼女の闘争心に火が付くだろう。なんてったってあいつは大の負けず嫌いだからな――とキールは思っていた。
「なんですってぇ!? これでどうよ!!」
ミリアは即座に両手から二発の
「二つ
勝ち誇ったように吠えたミリアの声に張りが戻りつつある。どうやらいつもの彼女に戻るのもそう時間はかからないだろう。
そんなことで始まった5日目だったが、終わってみれば予定の倍以上の
ここまでに破壊した出現ポイントはすでに両手の数を超えている。残すところは「誘われの森」
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