第185話 英雄王リヒャエル・バーンズという男


 時間は少々さかのぼる。

 キールたちが謁見の間にて英雄王との会談を済ませた後のことだ。


 いつものように「虫の報せ」を感じたキールは、『幽体』を発動した。

 まあこういう場合大抵確実に『扉』が現れるからだ。


 今回も例外なく次元のはざまに扉が現れていた。

 つまり、ボウンさんとの会談の時期だということだ。


――ガチャリ。


「やあ、ボウンさん、およびじゃないかと思って来ました、キールです」

「別に呼んどりゃせんが、相変わらずいい勘じゃのう。まあ、少し話しといたほうがええこともあるじゃろうから、来たのは正解じゃ」

「えへへ、お褒めにあずかり光栄で~す」

「褒めとらんわ! ってこのやり取り――。お前本当にまだ前世の記憶を取り戻しておらんのか?」

「へ? 何のことです? まだ記憶開放してませんよ?」

「う、うむ。まあ良い、こっちの話じゃ。とにかく座れ」

「はぁい」


 という訳で、今回の話は、英雄王リヒャエル・バーンズという人物についての講釈となった。




 『英雄王』リヒャエル・バーンズ――。現在の年齢は72歳、現メストリル王国国王である。ただし、一代王であり、次代の国王は未だ決していない。元は、前国王の友人で話し相手でもあった一介の冒険者だという。

 彼が現国王に戴冠した経緯についてはすでに述べているので割愛する。


 ここでは彼の冒険者としての一面を紹介することにしよう。


 冒険者クラスは最高位のアダマンタイト級。冒険者登録は12歳だったというから、今年で実に60年目ということになるか。

 彼の出自は謎に包まれているが、最初に登録をしたのは、ローランガルス王国の冒険者ギルド支部だった。これは記録が残っているから定かである。


 ローランガルス王国はメストリルから遥か西の国だ。

 そこで彼は約5年ほど下積み時代を経験している。その後、17の時にローランガルスを離れ、冒険者ギルド本部のある、カイゼンベルク、つまりヘラルドカッツ王国へと拠点を移した。

 本格的な冒険者のキャリアのスタートと言えよう。

 

 カイゼンベルクの冒険者ギルド本部には世界各地の「依頼」や、魔物の出没情報、新規開拓が必要な「迷宮」の発見情報など、とにかく他のギルド支部とは比較できないほどの圧倒的な情報が集まっている。

 但し、このギルド本部の依頼を受けるには冒険者クラスが「銀級シルバー」以上という決まりがあるのだ。


 その為駆け出しの冒険者は各地の支部の「依頼」をこなし、「駆け出しノービス」から、「銅級カッパー」、「青銅級ブロンズ」までクラスアップをして、「銀級昇格認定依頼」をこなして晴れて、「銀級シルバー」へと至るまでの間、長い下積み時代があるという訳だ。


 通常、ここへ至るまでに、7~8年かかると言われており、5年で突破したリヒャエルは当時から注目を浴びていた、当時の二つ名は『白猫ホワイトキャット』。

 諸先輩方より年齢も若く、また同時期に銀級へと昇格した連中よりも二つか三つ年下だった彼に、肌の色が白く体の柔軟性が高いことからついた二つ名だった。まぁ、「まだかわいい子猫ちゃん」という忌み語でもあるのだろうが。


 ところが、その二つ名はそれほど長くは続かなかった。


 銀級クエストを次々と踏破し、あっという間に金級昇格試験に合格してしまったからだ。

 実に、3年。

 通常であれば早くても5年はかかる道のりを、約3分の2ほどの期間で成し遂げたことになる。しかも当時まだ、20歳。他の金級ゴールド冒険者たちが皆25歳以上で脂ののった時期に上がるものを、この男はまだこれからという年齢で到達したことになる。

 自然、冒険者ギルドも注目を寄せる。このままいけば久しく到達していないアダマンタイト級冒険者が登場するかもしれないという期待感が沸き起こった。

 二つ名はすぐに取り換えられ、新しい二つ名は『黄金の卵ゴールデンルーキー』となった。


 結果的に彼は周囲の期待に応えることになる。

 それからわずか3年で白金プラチナ級に昇格、次いでその5年後についに金剛石アダマンタイト級へと昇格を果たした。

 そうしてそのころにはすでに現在の冒険者としての二つ名、『暴風ぼうふう』と呼ばれるようになっていた。


 ヘラルドカッツからほど近いメストリルの国王、つまり、先代の国王だが、彼とは奇遇が重なって邂逅を果たしたという。

 当時まだ、プラチナ級だった時の話だそうだ。


 それから彼のバックアップにこの国王がついてさらにアダマンタイト級への道が開けたとも言われているが、当のメストリル国王(先代王)から言わせると、


「私の力などなにも彼の役に立ってなどおらん。私が支えたから、ではなく、私の方が支えられておるのだからな――」


と、周囲の者には常々話されていたという。


 のちに、『ケルヒ領危機』においてその言葉が証明されることになる。



 その後、メストリル王国から爵位と領地受領の打診を受けたが、これを突っぱねたのはもうすでに話しているところだが、彼はこの後も数年間にわたりトップオブトップスとして並居る超強力魔獣を駆逐し、深層迷宮を探索し、数々の政治的な背景を持つ依頼にも顔を出したと言われている。

 

 そうして41歳の時、現役冒険者のまま、メストリル国王の崩御に伴い、メストリル王国国王を戴冠、それ以降『英雄王』と呼ばれるようになった。

 そして今もなお、『現役』を公言している。




「ふうん。すごい人だね。見た感じ、なんか面白い爺さんだなぁぐらいにしか思わなかったけど、あの人ってあまりそう言う威圧感を出さないよね」

「あやつは本当に面白い奴じゃよ。おそらく現在のこの世界においてあやつほど「冒険者」を体現しているものはおらんじゃろう。自由、気まま、正義感、快活、粗野、気さく。どれをとってもやつを表しておる。まさしく冒険者が目指すべきいただきじゃろうよ」


 そんな感じで、今回の会談は進んでいった。



 

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