第183話 英雄王の仲間
馬車に乗ったメンバーは全部で7人だった。
まずは英雄王リヒャエル・バーンズその人。ミリア・ハインツフェルト、キール・ヴァイスで3人。
そこに、重戦士系の装備のレイモンド・バーンスタイン、おそらく治癒術師だろう、司祭帽をかぶったキューエル・ファイン、レンジャー系のティット・デバイアの3人が加わり、これで6人全部だ。
ん? 一人足りない?
もう一人はこの人、随行員ネインリヒ・ヒューランだ。
「まさか、ネインリヒさんも一緒だとは思ってませんでしたよ?」
とキールが勘ぐるように言う。
「ニデリック様のご命令だ。でなけりゃダーケートなど遠方に行くわけがないだろう?」
と、小声で答える。
「何をこそこそやってる。ネインリヒ、お前がいてくれないと宿の手配から食事のことまですべて俺がやらんといかんからな。ニデリックの配慮には感謝している。もちろんわざわざダーケートまで随行してくれるおまえにもだ」
英雄王が聞こえてたぞというようにネインリヒへ告げた。
「は、身に余る光栄にございます。このネインリヒ一命を賭して陛下の旅程を補佐してまいります」
と慌てて応える。
「まあ、そう肩肘張るな、ネインリヒ。俺も一度国を出ればただの冒険者だと思っておる。陛下は止めてくれ、国王を忘れるがための旅なのに、お前がいるせいで思い出さされるのは御免だ。リヒャエルでよい」
「さ、さすがにそれは――。せめて英雄王と――」
「ふん、まあ良いだろう。ではそれで頼む」
「へ、あ、いや英雄王。頼むなどと滅相もございません。旅の補佐に関しては何なりとこのネインリヒめに仰せつけください」
と、まあ終始こんな感じだ。
ネインリヒにしてみれば、上官の上官なのだからある意味致し方ないところだろう。
「ところでキールよ。おまえ、魔術に目覚めたのはまだ2年ほど前だと聞いておるが、それはまことか?」
と、不意に英雄王がキールに尋ねた。
それは事実だ。
キールは王立大学に入って『真魔術式総覧』に出会うまで、魔法とは無縁のものだと自分も思っていた。
ところが面白半分にやってみたら、できてしまったというのが正直なところだ。
それが最初の最初であることは
「え、ええ。そうです。それは本当のことです」
とキールは応える。
「ふうむ。たいてい魔術師というのは国家魔術院がかなり綿密に精査して探し出すものだ。おまえはそれに掛からなかったということだな? ニデリックはこのことをあまりよくは思わないだろうな――。やつは結構細かいからのぅ」
と、ネインリヒの方をぎろりと見やる。
「あ、はあ、ニデリック様はキールの発見が遅れたことについて国家魔術院全体にさらに詳細に探知せよと厳命為されました。これ以降このようなことはないと思われますが――」
ネインリヒがたじたじとなって答える。
「ふむ、まあニデリックのいう事ももちろん大事だろうが、俺はキールが網に掛からなかったのは別の理由があるように思うぞ? まあこれは俺の長年の冒険者としての勘だがな――。だから根拠はと問われると答えようがないんだが――。キール、おまえその2年ほど前に何かあったのだろう?」
英雄王がズバッと切り込んできた。
ミリアは一瞬緊張が走ったが、キールはあいかわらず飄々として、
「さあ、さして思い当たる節はないのですが――。強いて言えば、夢を見た、という事でしょうか――」
と答える。
「「「夢?」」」
3人の反応が重なる。ネインリヒと英雄王はまだわからないでもないが、ミリアまで疑問に思ってのこの反応は、この話に信憑性をもたらす意味でいいスパイスとなった。
「ええ。ある日お前は魔術の素質がある、自分の可能性を信じろ――みたいな夢を見て、それで、王立書庫で魔法書の類を探して――そんな感じですね」
と、キールはしれっと嘘をつく。
「く、ははは、夢かぁ! なるほどなぁ! そいつはたいして何の根拠にもならんなぁ。公言しても眉唾だろうと思われるだけだからのぅ」
英雄王はそれが嘘か真か大方察しはついているのだろうが、それ以上は言及しない。冒険者たるもの、いくつかの秘密はつきものだと思っているからだ。
「そうですね。これを真剣に言ったとしても誰も信じないでしょうし。僕も言っていいものかどうか迷ったんですがね?」
とキールはまんまとやり過ごした。
「おい、リヒャエル。また面白そうな玉を拾ってきたもんだなぁ? この小僧、なかなかに食わせ者だぞ?」
これまでそんなやり取りを黙って聞いていた重戦士風の男が口を開いた。レイモンド・バーンスタインだ。
年齢はさすがに英雄王よりは若干若いが、それでも60は過ぎているだろう。
「全く、リヒャエル様に掛かったらどんなものでもいっぱしの冒険者にさせられますからねぇ――。ミリア、キール、相当覚悟しておきなさい」
と言ったのは司祭帽のキューエル・ファインだ。この男は丁寧な口調だがその眼光の鋭さはまるで獲物を狙う狼のようだ。年齢はまだ若い。40前と言ったところか。
「まぁまぁいいじゃねぇか。旅は楽しくなけりゃ息が詰まるぜ? 二人ともよろしくな、おれはティット・デバイアだ」
とティットも加わる。
なんにせよこうして旅が始まった。
ここから約7日間の旅路、目指すのは遥か東の国ダーケート王国、目的は『竹』の入手だ。
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