第180話 仕込み


「え~? なんでですか~? なんで、ミリアさんも一緒なんですよ?」

アステリッドは二人からの報告を受けて第一声にそう零した。


「し、仕方ないじゃない。私はキールの後見人だから――」

ミリアがアステリッドに釈明する。


 結局のところ、今回の謁見の内容は「大したものではなかった」――と、キールは胸をなでおろしていたのだが……。


「全く、とんでもないことになっちゃったわよ! あの英雄王のパーティメンバーだなんて! 命がいくつあっても足りないわ! もう! どうするつもりよ!?」

と、ミリアにとっては大惨事となってしまったようだ。


 英雄王はダーケート王国へ『竹』を取りに行くと言った。

 出立予定は約2か月後の3月15日だ。

 王立大学はまだ授業期間中だが、そんなことはお構いなしのようだ。というより、今回の褒賞として単位取得については保証するという事だった。まったく、王様というのは何でもありなのだろうか。

 今回の冒険に掛かる日数は約20日。もちろん、「送り迎え」付きだ。王国の馬車がパーティメンバーを運んでくれるという。とは言っても、もちろんダーケート王国までの道のりは長い。おそらく7日程だろうと英雄王は言った。つまり、往復で14日、現地滞在期間は6日から7日といったところだ。

 かつてキールはカインズベルクまで旅したことがあるが、その時でも3日だった。今回はその倍以上の距離になる。


(まあ、『空間転移』と『幽体』を使えばもう少し短縮できるのだが、さすがにを連れて次元の狭間を彷徨うわけにもいかないだろうしなぁ)

とキールはそのを断念した。

(でもまあ、少し長い旅行のようなものだし、ミリアも一緒だし大丈夫だろう――。ん? ミリアも一緒――って?)


「ええ~~~~!? 20日間もミリアと一緒に寝起きすることになるってこと?」

今更気付いたキールは突然大声を上げた。

「は、はあ!? なんであんたと一緒に寝なきゃなんないのよ!? そんなこと、あるわけないでしょ!」

ミリアが顔を真っ赤にして激怒している。

「そうですよ、キールさん! 一緒に行動するからと言っても同じベッドで寝るなんて絶対許しませんからね!」

「リ、リディ!? え? 何言ってるのよ――そんな――一緒のベッドって……」


 ミリアはそのまま自分の椅子にぐったりと腰を落とした。どうやら、放心してしまったようだ。


「ちょ、ミリアさん? ミリアさん! 大丈夫ですか!?」

アステリッドの声はミリアには届いていないようだった。


「――なんにせよ、『竹』はこの先の研究にとって重要な要素ファクターです。よろしくお願いしますよ、キールさん」

クリストファーがキールに告げた。


「あ、ああ。なんだかね、そうなっちゃったね。やっぱ、あの日の朝に英雄王と出会ったのがまずかったのかなぁ――。なんだろうなぁ。なんかこう、出会う人がみんないいヒトそうなんだけど、厄介そうな人なんだよねぇ」

そう言って、キールは自嘲気味に笑って見せた。



******



「しかし、ウェルダートよ。本当に良かったのか? まで共に行かせるというのは。俺は別にで構わんぞ? どうせ、俺のパーティも招集することになるだろうしな」


 英雄王はかたわらに控える、政務大臣ウェルダート・ハインツフェルト公爵に念を押した。

 

「そうですねぇ。まあ、かわいい子には旅をさせろと言うではありませんか。あの子にももう少し強くなってもらいたいんですよ、私は。キール・ヴァイスはおそらく百年に一人、いや千年に一人の逸材かもしれません。そんなものをこの国から放任してしまうのは我が国にとって大きな損失です。必ず我が国に帰属させなければなりません。その為にはあの子に――」

 ハインツフェルト公爵は少し口元を緩めて王に返した。


「親の心子知らず、とも言うがなぁ。まあよい。一人が二人になったところでたいして変わりはせんだろう」

「申し訳ございません。私が無理をお願いしたばかりに、世話を掛けることになります――」

「ふふふ、いやいやなんの。ミリア嬢も相当魔法の腕が上がったとニデリックからも聞いておる。なんだか本当にこんな高揚感は久しぶりだ。ああ、楽しみだな――」


「陛下、あまり無理はなさらぬよう。陛下のパーティに万に一つもあり得ませぬでしょうが、念には念をいれてお気を付けくださいますよう――」

2人のやり取りを聞いていたニデリックも英雄王にたしなめる。

「ミリアは本当に魔法の技術が上がっております。おそらく現時点において国家魔術院に彼女に比肩する魔術師は片手の数もいないでしょう」

と、さらに続けた。


「お前たち二人が将来有望な若者たちと共に冒険に出れるとは。俺がこの年まで現役だったのも何かのおぼしかもしれんな――。存分に楽しませてもらうとしようか」

英雄王がにやりと笑った。

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