第157話 記憶の芽
クルシュ暦367年12月上旬――。
年末年始休暇まで、もう
バレリア遺跡からメストリル王国へ戻ったキールたちはそれぞれにやることが山積みになっていた。
アステリッドとキールは「円盤の部屋」と前世の記憶の関係について考察するべく、デリウス教授と3人で会議を繰り返している。
また、クリストファーとエリザベス・ヘア教授はロジャー・ミューランとの会合の調整を、エリック・ミューランに打診していた。
ミリアはというと、もう3年生ともなるとこの時期はいろいろと忙しいらしい。大抵は貴族会への顔見世が多いが、国家魔術院からも何度か呼び出しがかかっているという。おそらくのところ、進路をどうするかというところの相談だろう。
キール・ヴァイスには大きな変革が訪れた。
思っていた通りだったが、やはり「円盤の部屋」への到達が試練だったようだ。厳密にいえば、「レーゲンの遺産の発見」が課題だったとボウンは言った。
メストリルに帰ったキールはすぐさま、『次元のはざま』へ向かった。『幽体』を使って『次元のはざま』へ行くと、
たぶん、このタイミングで合っているはずだという確信めいたものを持っていたキールは、その扉を発見した時、「やっぱりね」と苦笑いをしたものだ。
やはり、「扉」が出現していた。
部屋の中には
「ちょっと、
キールが何より言いたかったのは、この術式の消費魔力のことだった。
「なんじゃと? あれのおかげで今こうしてわしと話しておるのに何ちゅう言い草じゃ!」
「さすがにきつすぎでしょ? 僕本当に死ぬかと思ったよ? もうちょっと加減というものをですね――」
「そんな魔力を消費するものではないはずだぞ、
「「
「はあ? じゃあどうしてあの部屋の謎を解けたんじゃ? 明かりがないとあれは解けんはずじゃが――」
「僕が使ったのは「
「……? 何じゃと?」
「デイライト!」
「はあ? そんなわけあるまい、それは超高度の中でも特に消費魔力が大きいやつで、お前なんかが使えば、命の危険すら――。え? ほんとですか? ほんとなのね――」
「ほんとうです――」
「ぬああああああ! しまった! わしとしたことがぁあ!」
「どういうことです?」
「すまん。間違いじゃ――」
「え? はぁ!? 間違い!?」
「――まあ、気にするな! 大したことではないわ! がははは! それよりお前、あの術式をよく使いこなせたな? 凄いぞ! 偉い! かっこいい! イケメン!」
「笑い事ですか? そんなものですか?」
「ははは、問題ない問題ない。それよりもじゃ、今日の要件は、「
(あ、話進めた――。このまま無かったことにするつもりだ、このひと――)
「な、なんじゃ、その不服そうな目は?」
「もういいよ。それより、その話、進めてよ」
キールはこれ以上この件について言ってても何も進展がないと悟って、それより話を聞こうと思った。
「ああ、そうじゃった。おまえ自身の『記憶の芽』が封じられているままじゃから発動せんかったのじゃよ」
「ん? ちょっと待って、どういうこと?」
記憶が封じられているというのなら、封じた人がいるという事で、じゃあ、ヒルバリオは記憶じゃなかったってこと? いや、ヒルバリオは確かに言った、俺はお前の前々世の記憶だと。
「まさか――? またご都合主義的な展開ですか?」
「はあ? 何を訳の分からん事を言っとる。『記憶の芽』というのはつまり夢じゃ」
「夢?」
ボウンの話によると、人が見る夢には何パターンかあるという。
よくあるのは、過去に経験したことが複数断片的につなぎ合わさって、
『新生魂』とは、まだ一度も転生していない魂のことであるらしい。
また、実際には経験していない状況や、見たことのない場所が
「前世の記憶というものは、そういった夢の
とボウンは言った。
魂魄記憶再生術式は、この
「さすがにこの術式もようやくここまで到達したというもので、まだまだ
ボウンはさらにこうも言った。
「そして、それをさらに発展させる、それこそが「神候補」の役割なのじゃよ。「神」になったら、また次世代へと繋ぐ。お前の代で、この術式はどこまで発展するかのう?」
――どうやら、なかなかに大変な作業のようだ。
と、先日の予感が的中したキールは思っていた。
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