第154話 円盤の部屋
クルシュ歴367年11月中旬――。
ついに2回目のバレリア遺跡探索が開始された。
今回の目的は、「円盤の部屋への到達」と、「レーゲンの遺産の発見」だ。
探索メンバーはキール一味「学生部」の4人と、エリザベス、そこに、ウォルデラン諜報部長シルヴィオと諜報部員が3名の大所帯となった。
実に9名だ。
「トーチ」の魔法だけでは灯りが足りないということもあり、たいまつとかがり火を数本用意したが、それらの役目は実は補助的なものでしかない。
キールは『真魔術式総覧』からさらにいくつかの魔法を身に付けていたが、その一つに、『
しかし、この魔法が意外と魔力を消費する。
その為、今回のキールは、はっきり言って戦力外となってしまった。
「円盤の部屋」がある5層までの間、キールは魔法を使えないただの学生になったのだ。
つまり、戦力となるのは、ミリア、アステリッド、そして諜報部の4人という訳だ。あとの3人は、戦力にはならない。
「まったく、その神様とかいうのもいろいろと面倒な試練を吹っかけてくるんですね? 今度私が出会うことができたら文句言ってやりますよ」
とはアステリッドだ。
「ははは、さすがのボウンさんも、アステリッドに詰め寄られたらもう少し試練のレベルを下げてくれるかもしれないね――」
とキールは返しておく。
しかしながら、一行の探索は意外とすんなりと進んだ。
たいまつとかがり火を焚きながら、ゆらゆらと揺れる灯りの中を進んでいった割にかなりの速度で進んでいる。やはり、2回目ともなると、要領というものを得てくるのだろう。前回到達した2階層をあっという間に踏破し、その後も5階層の「円盤の部屋」の前まで、それほど大きな問題もなく、時間もたいしてかかっていない。
出てくるモンスターも、ブラックスライムと巨大ローチで大した障害にはならなかった。まあ、諜報部のシルヴィオの部下3名の働きによるところが大きいのだが。
やはり彼らは手練れの暗殺者たちだ。魔法の技術というよりもその剣術の方が実は本領なのだろう。何の危険もなくざくざくとモンスターたちを駆除してゆく。
(あ~。あの日の対決が魔法でなく剣によってのものだったら、今の僕の体の上に首は載ってなかったかもしれないなぁ――)
と、キールは思ったものだ。
しかし、おそらくその可能性は低かったと思われる。
当時のシルヴィオの目的は、シュニマルダの威信を維持することだったはずだ。とすれば、キールの得意な土俵で、キールを圧倒し、その力を誇示する必要があった。ただ単に、キールを排除するためであれば、ほかに方法はいくらでもあったはずなのだ。
そういうところも、この頭目の「人となり」が現れているところだろう。
(なんとなくだけど、
と、思いつつ、隣に控えていたシルヴィオの方を見やる。
シルヴィオはキールが自分の方を見て笑みを浮かべたのを確認して、何事かと思い、
「――? 何か気がかりなことでもございましたか、キール殿」
と返したが、
「ああ、すいません。別に何でもないです。とても助かっています。ありがとうございます」
と突然お礼を言われたものだから、余計に意味が分からない。
「あ、いえ。ゲラード様からのご命令でありますれば、当然のこと――」
と、返すのがやっとだった。
「ここよ――。ついに辿り着いたわ――」
エリザベスが文献の資料から写し取ってきたこの地下遺跡の地図を開きながら、通路のすぐ先にある四角い入口を指さした。
その入り口の先は闇に閉ざされている。
「とりあえずは、先に私の部下を進ませます。部屋の中に何かがいたら困りますからな――」
シルヴィオが部下たち3人に合図をすると、3人は注意深く部屋の中を覗き込み、やがて部屋の中へ入っていった。
数秒後、一人が入り口から現れ、一行に問題ない旨を告げる。
おそらく魔法感知をくまなくかけた結果、特に危険なモンスターは見当たらないということだろう。
「大丈夫なようですな。それでは私はここで、入り口の周辺を警戒しておきます。皆様は部屋の探索を開始してください」
シルヴィオはそう言って一同を部屋の中へ進むよう促した。
さあ、ついに、「円盤の部屋」を拝む時が来た。
話に聞いていた、いくつもの箱が並ぶ部屋とは、いったいどんなものなのだろう――。
一同の胸には期待と興奮が溢れていた。
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