第151話 友人のお父さんとお母さん
「なるほどね――。あんたもなかなか面白そうな人生送ってるじゃない?」
というのがカーラ、つまり、レオローラ・ジョリアンの第一声だった。
二人(カーラとマイク)は王立大学にキールが入学してからこれまでの話をざっと聞き終えたところだ。そしてその話を聞いた後の第一声がそれだった。
「キール、平民は自由が資本よ。大いに人生を謳歌しなさい。人生は一度きりしかないんだからね!」
という母の言葉に、僕はどうも3回目らしいけどね、と心の中で突っ込みを入れつつ、次のように返す。
「父さんと母さんは自由すぎるんだよ。もうそれ、自由とか言わないし。自分勝手、無責任、育児放棄だよ」
そう言われた二人は、互いを見合わせて、次いで大笑いする。
「ハハハハ、まったくだ。キール、おまえ、うまいこと言うなぁ。さすが王立大学生だ!」
マイクはそう言って答える。
この人、まったく意に介していない様子だ。まあ、もう分かってるけど――。
キールもさすがにすべてを話している時間もないため、
大学の書庫で魔法書を見つけたこと。少し魔法を使えるようになったこと。そうしたら魔法の素質がかなり高かったこと。一時、ある事件に巻き込まれてカインズベルクへ逃亡生活をしていたこと。魔法の素質のせいで王立魔術院から監視対象になっていること。三大魔術師と会見して協力関係になったこと。南のベイリス遺跡に探索に行ったこと。娼館主の経営顧問になっていること。
といった感じだ。
さすがに、神様の話はしていない。前世があったり、前々世があったりという話も飛ばしている。それは、なんとなく気が引けたからだ。やはり二人の前では、自分は、キール・ヴァイスであって、他のなにものでもいたくない。そう思ったからだ。
その点、すべての事情を知っているミリアたちも何も口を挟まなかった。
「ところで、レオローラさん? 本当にあの、レオローラさん、ですよね――?」
とは、アステリッドの言葉だ。
なるほど、確かに普段着の彼女なんてみんなは見たことはないのだろうから、当然、舞台の上と今ここでの印象には大きな開きがあるだろう。何と言ったって、もう40過ぎのおばさんなんだから――。
ある意味アステリッドの反応は自然と言える。
「――わたし、本当に驚いているんです! 本当にお綺麗なんですね! 演劇女優っていうから、すこしはその、お化粧とかで、あの――」
(え? そういう反応なの?)
「あら、ありがとう! 今日はお化粧は控えめだけど、舞台と変わらない? そう言ってもらえると嬉しいわ! あなた、お口が上手ね? キールの彼女なのかな? それともそちらのお嬢さんの方かしら?」
レオローラはそう言いつつ、もう一人の女学生、ミリアの方を見やる。
「あ――、いえ、私は――。キールくんとはともに魔術師を目指して
「あ、ずるいです、ミリアさん。わたしは、アステリッド・コルティーレです。キールさんの彼女に立候補中です! よろしくお願いします!」
「ふふふ、二人とも初々しくてかわいいわね? 私はどっちも好きよ? 頑張ってね?」
「ちょ、母さん! 何を言い出すんだよ!? ふ、二人に失礼だろ!」
「まあまあいいじゃないか。若いというのはそういう事さ――、俺と母さんだって――」
「父さんの話は今はいい」
「あ、ああ、そうか?」
マイクは残念そうに引き下がる。
「ハインツフェルト――。そう、あなたがあの公爵の御息女ってことね? で、こちらはコルティーレ――。こちらも男爵家ね。そう……、二人とも貴族家の出身だったのね。どうりで――」
「母さん、二人の家は今は関係ない話だろ? 二人は僕の大切な仲間だ。家柄は関係ない――」
「あ、ああそうね。私が悪かったわ。もう、キールったら、むきになっちゃって――。母さん、こわいわぁ~」
とそう言っておどけて見せ、
「ああ、そうそう。お詫びと言ってはなんだけど、今週末、みんなで王立劇場へいらっしゃい。席を用意しておくわ」
と続けた。
アステリッドは飛び上がらんばかりに喜んでいた。
デリウスはずっと押し黙ったまま固まっている。
クリストファーだけは、何故かマイクの方を気にしている様子だったが、その理由がそのあと判明する。どうやら、彼は、絵画の方に興味があったようだ。キールの父、マイクは稀代の天才画家ヒュリアスティ・レリアルなのだ。
クリストファーはそのあと、今自分の部屋に飾ってある小さな彼の作品にサインをもらう約束を取り付けていた。
みんななかなかにミーハーである。
とうぜん「ミーハー」はこの世界の言葉ではないが、そこはもう流しておこう。
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