第147話 溢れる決意と闘志


「はぁ――。まったくあんたって、いったいどういうなのよ――?」

話を一通り聞いたミリアが、さすがに大きなため息をつく。


「つまり、キールさんが次の神様になる。そういう事ですよね? 今の話の内容だと――」

クリストファーが非常に簡潔にまとめるが、確かに間違ってはいない。


「え~? さすがにキールさんが神様っていうのはちょっとぉ、なんていうか、無理? じゃないですか? イメージがわかないですよね?」

アステリッドもさすがに訝しそうな目を向ける。


「ははは、面目ない――」

キール自身、こんな話をまともに信じているわけではないし、自分が神様になるなんて想像してもピンとこないのは事実だ。


 しかし、実際に神様、つまりボウンさんだったものとは出会って話もしている。そしてその証拠に、昨日まで全く読めなかった『真魔術式総覧』が読めてしまうのだから、信じるも信じないもないのだ。


 キールは取り敢えずのところ、『幽体』を使って次元のはざまに行くと、扉があるときがあって、その扉の中に白い部屋があり、そこにボウンさんがいるんだと言った。そして、そのボウンさんはかつて大魔導士ロバート・エルダー・ボウンとしてこの世に存在していた人で、今は先代を継いで「神」になったと言ったと話した。

 そして次の代の「神」になる候補者を探すため、『真魔術式総覧』をこの世に『設定』したという事も話した。

 つまり、「それに出会い手にしたもの」こそが候補者になり、その天寿を全うした後、おそらくいくつかの「試練」をクリアしていれば、ボウンさんの次の「神」となって、ボウンさんの役目が終わるのだろうとも話した。


「――それで、あんたが初めての候補者なの?」

「いや、どうやら、僕の前にもう一人いたらしいんだ。だけどその人は神にはなれなかったらしい。どうしてなのかは教えてくれなかった」


「じゃあ、その人はもう亡くなっている、のかな?」

クリストファーがとても的を得た疑問を投げる。確かに、「神」になれるかどうかが死後に決定するものならば、そういうことになるのだろうが――。


「いや、それもなんとも言えないとおもう。時折、ボウンさんから、頭の中に呼びかけがあるし、こちらが呼びかけると答えてくれたりすることもあるけど、いつもというわけじゃない。次元のはざまの扉もいつも現れるわけじゃないから、もし仮に、「落第」になったら、話もできなくなって、扉ももう現れなくなるのかもしれない。なにせ、こっちから向こうにはいつでも行けるというわけじゃないんでね?」

キールが答えた。


「――という事は、その、前の神候補がもしかしたらまだ今の世に存在しているかもしれないってことになりませんか?」

クリストファーがこれまた核心を突く疑問を口にした。


 確かにそうだ。ボウンさんは、「神候補がいた」と言っただけで、その人が今はどうしているかについては一言も言っていない。なるほど、それはあり得ないとは言い切れない。


「――なんていうか、もしその人がまだ生きていて、キールさんが自分の次の「神候補」だって知ったらって考えると、ちょっと気持ちよくないですよね?」

アステリッドがこぼす。


「たしかに――」とミリアが合わせて、次いで、「まあ、とにかくこの話は、今考えても答えが出ないことだし、キールのただの妄想か夢かもしれないから、ここにいる者だけの心内こころうちにしまっておきましょう」とまとめる。



 一同もそれには賛同だった為、「神候補」の話はここまでとなった。


 次いで、『総覧』の記述についてだが、どうやらキール以外には今までと何も変化はなく、相変わらずよくわからない言語で書かれているようにしか見えないらしい。キールにしてみても、そういう目で見れば、やはり元通りのこれまでの記述になっていることが「見える」という事だった。まったく都合がよすぎないか?


「それで? その、記憶に関する4つの術式は見つかったのよね? 発動してみたの?」


「うん、やってみた」


「そ、そう。で? 結果は――」と言ったところで、ミリアが気付く。


 もしそれが発動して成功していたら、おそらくキールに何らかの変化が起きていてもおかしくはない。すべて思い出していたとしたら、さすがにいろいろと思う事もあるだろうし、世の中やまわりの人達に対する見方が変わったりしてもおかしくはない。しかし、今日のキールにはなにもいつもと変わったところは見られない。


「――発動しなかった、のね?」


「――うん。出来なかった。さすがにこれまでがうまく行き過ぎていたんだろうとは思うけど、やっぱ、これまで全部発動していたから、少しばかりショックだった」


「あ~。私の夢の謎がついに解けるかもと思ったんだけど、お預けかぁ~」

アステリッドも残念そうに万歳しながら椅子の背にもたれるように伸びをした。


「そう――。それで、どうするの?」

ミリアはもう先を見ている。やはり、そこはミリア・ハインツフェルトだ、いつでも前向きな彼女は今日も変わらない。


「たぶんだけど、まだ、“条件パーツ”がそろってないんだと思う。前に、アステリッドが言っていた“パズル”の話、覚えてる?」

「僕たちは互いにそれぞれに必要なものを持っている――というあれですね?」

キールの問いにクリストファーが答えた。


「そう、それ。僕にももしかしたらそれが必要なのかもしれない。ボウンさんが言ってたんだ、『お前、南の遺跡に行ったじゃろう?』ってね。どうもそれが条件だったようなんだよね。つまり、この次は――」


「バレリア遺跡の探索で何かが見つかる――?」

ミリアが続ける。


「――たぶん、そうなんじゃないかな」


 キールの目にもまた、次の段階に進む決意と闘志が溢れていた。

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