第131話 共に歩む覚悟
その翌日、歓迎式典から懇親会へと次第は滞りなく進んだ。
シェーランネル王国からの使節団はリシャールを含む計5名だった。その中にベアトリス・メイローも含まれている。
約3年ぶりとなる邂逅に、各々が再会を喜んだ。
キール・ヴァイスはこの懇親会に招待されていた。もちろん『保護者役』のミリア・ハインツフェルトも同行している。
「ミリア、さらに美しさに磨きがかかったわね。もう立派な
リシャールがミリアに目を止めると第一声にそう挨拶を投げてくる。
「リシャール様、ご無沙汰しております。長旅お疲れさまでした。わたくしなどまだまだでございます。これからもご指導賜りますようお願いいたします」
ミリアは当たり障りなく挨拶を返しておく。
リシャールの
ミリアの隣に控えているキールの方をじっと診ているからだ。おそらく魔法感知を発動して、キールの素質を図っているのだろう。
「ご紹介いたします、こちらがキール・ヴァイスです――」
そういってミリアの隣に控えていたキールを紹介した。
「あなたが、
そういって名を名乗る。
「初めてお目に掛かります。こちらこそ宜しくお願い致します」
まずは通例の返礼だ。
そんな一同のやり取りに目を止めたニデリックが寄ってきて、声をかける。
「キールくんは王立大学の国家法治学が専攻です。一年ほど旅行に出て休学していたため、学年はまだ2年ですが、ミリア君とは同い年となります。いまはいくつになったのだったかな?」
とニデリックがキールに投げる。
「19になります」
キールが即答する。
「なるほどね。若いわね。で? 魔法はいつから?」
リシャールがこれを聞いて早速切り込んできた。それはそうだろう、彼女が興味があるのは、『学生』のキール・ヴァイスではないのだ。
「2年ほど前から、です」
これにも即答する。
そもそもキールの性格としては大抵はこんな感じだ。余り警戒するという事をしない。つまりは、『疾風』を前にしてもいつも通りのキールだという事だ。
「本当に偶然、面白半分でやってみたら出来たので正直初めは驚きました。だってそうでしょう? 普通、魔術師の素質があるものは幼少期にはそれを見出されて、国家魔術院からなんらかの接触があるものだと聞いていましたから――」
そのとおりだ。国家魔術院はそれを探索している機関でもあるのだから。
「それについては今原因の究明にあたっているところです。なぜ彼を見過ごしていたのか、はっきり言ってわかっていません。ですが、事実です。これについては魔術院は真摯に受け止めねばならないと考えています」
と答えたのはニデリックだ。
「ふうん。では、君はたかだか2年ほどで錬成「4」へ到達したと。そう言うのね?」
「いえ。正確には錬成「4」に到達していたのは初めからです。魔法が使えるようになった初めの頃にもう「4」でしたから」
「なんという才能――。そう、やはりあなた、相当な希少価値だわ。あなたはそのことをどう考えているの?」
つまり、リシャールはこう問うている、『自分が世界から注目を浴びる存在であるという事をちゃんと理解しているのか』と。
「そうですね。仕方ないことだと思っています。ですが、うれしいことも多くあります。なので、自分は自分らしくあろうと思います」
キールは精一杯自身の境遇について自分がどう受け止めているかを表現したつもりだ。
「ふふふ、たしかに、あなたの言う通りね。こればかりは仕方のないこと。受け入れて進むしかないものね」
リシャールはそう言って、ミリアの方に視線を移した。
「ミリア・ハインツフェルト。あなたもそうなのね? この子とともに歩む覚悟なのね?」
ミリアはその目に決意の炎を燃やしている。もとより、キールとはどこまでも共に歩むつもりだ。貴族である自分がキールにできるのはそれしかないのだから。
「はい、リシャール様。私はキールと共にこの道を行こうと覚悟いたしております」
聞きようによってはまさしく「逆プロポーズ」ではあるのだが、今はもちろんそういう意味には解されない。
少なくとも、周囲の男たちはそういうふうにはとらえていなかった。
「ふふ、ミリア。よおく分かったわ。あなたの覚悟、気持ちいいわね。同じ女性として応援してあげるわよ。私はね、ミリア、自身の境遇を理由に愛する男を捨てたことがあるのよ。だから、あなたの気持ちがよくわかるつもりよ。安心なさい。あなたは私が護ってあげるわ」
ミリアは直感的に「
ニデリックはリシャールの言葉に違う感情を湧き起こしていたが、過去の話を今さらここでぶり返すわけにもいかない。表情には一切出さず、ただ黙っていた。
ベアトリスはそんなニデリックの表情にあらわれた一瞬の
「ありがとうございます。リシャール様のそのお言葉、ミリアは本当にうれしく思います。この先はリシャール様の期待にお応えできるよう、精進を怠らぬことをお誓いいたします」
ミリアはまっすぐとリシャールを見つめ返してそう告げた。
(キールのことは命に代えても私が護って見せる――)
この視線にその想いを込めてのことだったのは言うまでもない。
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