第124話 ゲラードの目論見
結局はすべてゲラードの目論見通りという事になった。
かねてよりゲラードは『シュニマルダ』の現状に憂慮していたのだ。この闇の組織はそもそもウォルデラン王国建国の際に付き従った者たちのうち、「王国兵団」という表舞台に上がり損ねた者たちの寄せ集めだった。
その後、ウォルデラン国家魔術院がその身柄を預かり、諜報活動を主に行っていた。その中で、かなり数は減ったが、「闇の仕事」もこなしていたというわけだ。
とはいえ、時代はもう戦乱時代は過ぎ去り、「自由経済主義」の世に移り変わっている。「闇の仕事」と言っても、いわゆる「相談役」というようなものしか仕事はない。表立っては解決できない諸々の問題を解決に導くため「交渉」をする。ジルベルトが今ルイの娼館でやっているようなことだ。
しかし、それほど仕事がない状況下では、組織の構成員たちの実入りが少ないため、個人的に組織に無断で仕事を受けてくる輩も徐々に増えてくるのは必定だ。ジルベルトの兄、ゲオルグもその一人だった。
かつてメストリル王国で起きたことが、再現されようとしている。その時は、ウォルデラン王国の樹立という手を使って、メストリルはうまくその者たちを「排除」したが、ウォルデランがその方法をとることは難しい。
(結局は解体するしかないのだろうな――しかしどうやって――)
そこに降って湧いたのが、「キール・ヴァイス」だった。
ゲラード自身が直接手を下してシュニマルダを敗北させたとしても、組織解体の大義名分にはならない。
しかし、シュニマルダには「掟」がある。
結局はシルヴィオとキールの「私闘」という形にして、あわよくシルヴィオが負ければ――、と考えたというわけだ。
もちろんキールが負けたとしても、それはそれで両国家魔術院にとっても憂慮すべき事項が減るのだから問題ない。
敗北は死か、生き残ったとしても追従するしかない。魔術師の世界とはそういうものだ。
その点、キール・ヴァイスはゲラードの期待通りだった。
そしてもう一つ、キール・ヴァイスという魔術師の「危険さ」は想像以上だったことも判明した。
(ニデリックが可愛がるのもよくわかる――。こいつは本当に面白い小僧だ)
ゲラードも、初めて出会った時の自分の見立てが正しかったことに満足していた。
******
その後、一同は別室に案内され、そこに準備されていた料理に舌鼓を打ち、歓談を交わし、親交を深めた。
シルヴィオ・フィルスマイアーと、シュニマルダの面々も同席させられ、一緒に『お披露目会』が行われた。つまり、国家魔術院とキール・ヴァイスの協力関係と、国家魔術院に新設された部署「諜報部」の両方のお披露目となったわけだ。
これにより『シュニマルダ』は事実上消滅し、完全に国家魔術院の一部署となった。つまりは国家がその身柄を保証することになる。組織のものたちの
キールは宴会の後、また大浴場に来ていた。
今日はゲラードが用意してくれている部屋に宿泊することになっている。国家魔術院の建物の広さとその設備の充実ぶりには目をみはるばかりだ。
部屋は8人すべてに個室が用意されていたため、キールは一人でここへやってきた。他のものたちも、もしかしたらあとで来るかもしれないが、今はキール一人だった。
(しかし、なんというか、あの人の手のひらでうまく転がされたようでちょっと居心地が悪いなぁ。これ全部、あの人が仕組んだことだろうし――)
カラカラカラ、と、浴場の入り口が開く音がする。
やはり、みんなのうちの誰かが来たのだろう。ジルベルトか? クリストファーか――?
「俺だ――」
背中から一番聞きたくない人の声がした。ゲラード・カイゼンブルグだった。
ゲラードはキールの横に会談の前と同じように身を沈めた。
「ああ~、楽しかったなぁ、なあ小僧!」
唐突に声を上げる。
「何が、ですか。僕たちは危うく死ぬところでしたよ」
キールが不服そうに答える。
「ははは、まあそういうな、生きてるから大丈夫だ」
「だから、あなたの『大丈夫』は信用ならないって、そう言いませんでしたか?」
「お? 俺今、大丈夫って言ったか?」
「また、とぼけて。そんなんだから誤解されるんですよ。今日のことも全部あなたの思い描いたとおりだったのでしょう?」
「いや、思っていた以上だった。キール、お前は本当に面白いやつだ。さらに気に入ったよ」
「やめてください。裸で並んで座ってそんなことを言ったら、それ、本当に誤解されかねませんから」
「ははは、まったくだ。あ、一応言っとくが俺は男にそっちの趣味はないからな?」
「聞いてませんよ。冗談です。本気にしないでください」
「キール、いろいろと世話になった。これで『シュニマルダ』の件も片付いた。礼を言う。今度は食事への誘いでは褒美が見合わないなぁ。どうしようか――」
「いらないですよ。あなたの褒美にはなにかいつも『おまけ』がついてそうで、嬉しくないかもしれないですから」
「ああそうだ、お前の仲間に南の遺跡のことを調べてるやつがいるな、クリストファーだったか。あの遺跡はウォルデランの管轄だ、探索するにはウォルデランの許可がいる。それをお前にやろう、それでどうだ? ここからそう遠くはない場所だ、探索するなら、ここを定宿にしてもいいぞ?」
「あ――、それは、いいかも――」
「だろ? じゃあ決まりだ。王国の方へは俺が話を通しておく。お前たちは今後自由にその遺跡を探索していいぞ」
これはなかなか「いい褒美」をもらったかもしれない。
いずれ訪れることになるとは思っていた場所だ。しかしそういった遺物というのは基本的には自由に出入りできるところではない。
それが「自由になる」というのはとても助かる。
「ありがとうございます。――でも、またなにか『おまけ』がついてるんじゃないでしょうね?」
「それなんだがな――」
ほらやっぱり。
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