第121話 旅の疲れをいやすものと言えば
クルシュ暦367年8月11日――。
大学はすでに夏季休暇に入っている。太陽は真上からじりじりと照り付けている。夏真っ盛り、という感じだ。
今、キールたちはウォルデランに来ている。
結局あの会談の後すぐに、ゲラードから招待状が届いた。8月11日にお披露目パーティーを開くから参席せよとの要請だ。もちろん、招待状は各員にも届けられた。つまり、『キール一味』とみなされた面々7人にだ。
その後すぐに予定を合わせ、一昨日メストリルを出発し、中継点であるギリャで一泊した後、先程ウォルデラン王国王都ウォルデランに到着したというわけだ。
しかし、「一味」と言っても、ジルベルト、ルド、ルイの3人と、ミリア、アステリッド、クリストファー、デリウスの4人はそれこそほとんど面識がない。ミリアとルイは過去に一度遭遇しているが、二人ともあまり覚えていなかったようだ。アステリッドとジルベルトは一度遭遇している。ジルベルトがあの時の「学生」だとわかったアステリッドはやや態度を硬化した。まあ、それは当然の反応だろう。
ミリアとアステリッドは最後までジルベルトとルイに警戒心を抱いていたが、それも、キールと二人が普通に会話しているのを見ているうちに少しは和らいできたという感じだ。
まあ、二人の気持ちは分からなくもない。二人ともキールのことを慕ってくれていることをキールも知っている。その度合いというか、取り扱いというか、そういうことはよくわからないが、そんな二人が、一時はキールの命を狙っていたものたちに対して容易に心を開かないのはある意味当然のことだ。
さすがにジルベルト自身も彼女たちの
キールもそこは理解している。
道中はルイが用立ててくれた馬車に揺られて一日でギリャへ、そこで一晩過ごし、翌日昼にウォルデランへ到着したというわけだ。7人乗るとなると、結構な大きさの馬車になったが、そこはルイの財力だ、まあ問題ないだろう。
一行はそのままウォルデランの国家魔術院へ入った。
パーティーは今晩だ。それまで、旅の疲れを癒し、支度を整えるにはまだまだ充分な時間がある。ウォルデランの国家魔術院には実は大浴場というものが備わっている。ゲラードもお気に入りの施設で、「旅の疲れを癒すために是非にと必ず案内せよ」と言われていると案内役の女のひとから聞いた一同は、これを
大浴場は男女別に二つ用意されているらしく、聞くところによれば、ここ魔術院の職員たちが旅の疲れや職務の疲れを癒すために普段は自由に利用できるらしい。
しかしながら、今日のこの時間は、特別に貸し切りの時間をとってあるという事で、気兼ねせずゆっくりと疲れを癒してくださいとその女は一同に告げた。
キールたちはその「大浴場」の設備の豪華さに目を見張りつつも、温かい湯が大量に蓄えられた浴槽に体を浸し、ゆっくりと体の疲れを癒し、汗を流した。
少し気になるのは、女性たちの方だ。ミリアとアステリッドはまあいいとして、ルドとあの二人はあまり言葉を交わしていなかったようすだったが大丈夫だろうか。
などとキールはやや心配であったのだが、「大浴場」の脱衣場の外に設けられたラウンジで、女性たちが出てくるのを待っていた男性陣は、入るときと出てくるときの3人の様子があまりに違うことに正直面食らうことになる。
いつだって、女性というものはやはり理解が難しい。このたった数十分の間に何が起きたというのだろうか。まさか、それを問いただすわけにもいかず、男性陣はやや
その後、「支度部屋」にもどった一同の元にルームサービスが運ばれてくる。確かにもう昼を過ぎている。ちょうどおなかもすいてきた頃だった。いいタイミングで運ばれてきた食事を一同は遠慮なく頂いた。これも、ゲラードの
旅で疲れた体に染み入るようにすぅっと腹に落ちてゆく料理の取り合わせは、おそらく、意図的に用意された
食事の後は夜のパーティーまで、自由行動となった。支度部屋にいるもよし、もう一度「大浴場」へ行くもよし、魔術院の中を散策するもよし。ただし、一つだけ制限がかかる。魔術院から外へは外出しないでもらいたいという事だった。
確かに、パーティーの前に「
これには快く応じておくべきだ。ウォルデラン観光ができるのであればそれは明日また時間をとればよい。特に帰りを急ぐわけでもないのだから。
そんなこんなで、キールたちはその後の時間を思い思いに過ごし、いよいよ夜の「お披露目の時間」を迎えることになる。
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