第115話 出会ってみたい人
『火炎の魔術師』ゲラード・カイゼンブルグ。
ウォルデラン王国国家魔術院院長であり、ニデリック・ヴァン・ヴュルストの実兄である。
二人の家名が違う理由については前に述べている。
錬成「4」、「上位」クラス。
クラスこそニデリックの「高度」クラスより一段下であるが、彼の
ゲラードの真骨頂は錬成の速度と射程距離だ。
基本術式である『火炎』。
通常クラスのこの魔法は初等魔術学院でも習う基本魔術式の一つだ。手のひらからわずか数センチの場所に『炎』を具現化する術式である。その炎の最大威力は術者の魔力量に依存する。
つまり、魔力量が高い術者ほど、大きな、あるいは火力の強い「炎」を生み出すことができるというわけだ。
この威力という点においては、ニデリックとゲラードの間にほとんど差がなかった。
差が生まれたのはその錬成速度と射程距離だった。
ニデリックも錬成速度はかなり速い。おそらく、彼の速度に匹敵する魔術師はほとんどいない。しかし、ゲラードはその上を行く速度を持っていた。
そしてさらに驚愕なのは、その射程距離だ。
先ほど、『火炎』の魔法は手のひらの数センチ上に「炎」を生み出すと言った。しかし、ゲラードのそれは違うのだ。
彼の場合、手のひらの先、2~3メートル向こうにも「炎」を発現できるのである。
通常、その距離に炎を持っていくためには、『火炎』の術式に風属性の魔法を合わせて、炎を送り出す必要がある。『火炎』+『送風』の火炎放射や、『火炎』+『突風』の火球発射などがそれだ。
しかし彼は『火炎』単体魔法でその場所に炎を生成することができる。
どうして彼にだけそれができるのか、まさに、彼独自のオリジナルの能力というしかない。
現時点で判明してる限り、それができる魔術師は世界にたった一人、彼だけなのだ。
しかし、どんな魔法でも射程距離が長いのかというとそういうわけでもない。炎系の魔術についてのみ、その特徴が現れるのである。
そこから付いた二つ名が『火炎の魔術師』というわけだ。
彼はそのオリジナルの能力を生かすためにさらに火炎系の魔術式を極めていった。
現時点で火炎系最強の魔術式といえば、彼の習得した「
彼の魔術の才についてはこの程度の記述で今は足りるだろうか。
それでは次に彼の「人となり」について触れていこう。
「とにかく、何を考えているかわからない人よ――」
ミリアは第一声にそう言った。
「確かに今の立場的にはウォルデラン王国国家魔術院院長ということになっているけど、本当にそれは、ほかに適任がいないからってだけで、実務についてはほとんど無干渉らしいの。彼が魔術院院長として公式の場に姿を見せるのは、式典がある時ぐらいだって聞いてる」
ミリアの話はあくまでもこれまでの両国魔術院の交流から聞こえてくる「噂話」のレベルの話だ。ニデリック院長やネインリヒさんはもちろんともにメストリルの国家魔術院で魔法を学んだ「級友」同士だからよく知っているだろうが、ミリア自身は過去に一度、メストリル王国の魔術院設立何周年かの記念式典で出会ったのが最初で最後だ。
ただ、その時の様子からも、なんというか、つかみどころのない人物というイメージが強かったらしい。
性格的には結構明るい、というか、自由? なところがあって、今話していた人がいたはずなのに、急に相手を変えて話し出すとか、話の途中で離席したり、式典中にはさすがに消えはしないが、式典終了後の交流会の途中で姿が見えなくなったり、消えたかと思うとふっと舞い戻ったりだという。
そのくせ、人当たりは悪くなく要所は抑えているため、結構人気者でもあり、彼の周りには自然と人が集まるという風だったということだ。
「その点、いつも何かを考え込んでいるイメージが強い、ニデリック院長とはとても対照的な方だったわ――」
とミリアは知っている限りのゲラード・カイゼンブルグ像を話してくれた。
「おもしろい人、だね。僕も一度会ってみたいな」
クリストファーは単純な好奇心として言葉を発した。
「なんか、聞いてる限り、ぜんぜん悪い人には思えないんですけど――」
アステリッドも感想を述べる。
「――――。なるほど。あのニデリックがなんとなく敬遠するのがわかる気がするな。本当にそういう意味では『相性がわるい』んだろう。たぶん、彼からすると、何を考えているのか、いや、考えていないのかもわからないんだろうな」
とは、デリウス
「そういう奔放な人物と理論的な人物ほど相性が悪いものはないからね。行動や思考が読めない。ましてや、兄弟ともなると余計に相手が理解できないことに違和感を感じるのだろう。今は分かれてそれぞれの自身の立場を確立しているからいいが、この二人がいつも一緒に生活していたとすれば、いまのニデリックはなかったかもしれないね」
キールはこれまでのゲラードの話を聞いていて、ある確信に至っていた。
おそらくだが、ゲラードは自分のことをすでに知っている、それだけではない。
『かなり気になって興味がある』と思って間違いない――。
どうしてそう感じたか――。
理由は単純明快だ。
今、キール自身が、ゲラード・カイゼンブルグにとてつもない興味を持っていて、会ってみたいと思っているからだ。
(なんとなくわかる、気がする――。会って話したら、意外と事はたやすく運ぶんじゃないか――)
キールはそう確信していた。
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