第114話 シンクロニシティ
「え? なに? どうゆうことなの?」
「だーかーらー、ゲラード・カイゼンブルグってどんな人なのかなぁって――」
「だから、それをどうしてあんたが聞くのかって聞いてるのよ!」
今一同は、デリウスの研究室に集まり、テーブルを4人で囲んで座っていた。デリウスは教授机でコヒル茶をすすっている。
ミリアは唐突にキールから受けた質問に、とてつもない不安を感じて問い詰めた。そのキールからの質問はこうだ。
『火炎の魔術師ってどんな人か、ミリアは知ってる?』
いきなり不意にそんなことを質問されて、『ああ、こんな人だよ』と答えるミリアではない。キールがそんなことを聞いてくる場合、かなりの確率で、よくない状況が起きていると直感的に感じたのだ。
それで、先程の
「あ、それは、え~っと、単純にふとそう思っただけだよ」
「ない。それはないわ。何か隠してることがあるでしょ? ちゃんと白状しなさい!」
「キールさん、話してあげたらどうですか? まぁ、私はもう知ってますけど?」
アステリッドがやや
「へえ、リディーはもう知ってるんだ。知らなかったのは僕とミリアと先生だけってことか」
と、クリストファーが差し込んでくる。
「うっ」
と、キールは
3人も知らないことを、「だけ」という表現もどうかと思う。むしろ、知っているのはアステリッドだけというのが筋だろう。
しかし、こういう言い回しをされると、隠していたような感じがより強調されるというものだ。
(おのれ、クリストファー――、なかなかの策士だな)
と、キールは
「さあ! いいなさい!」
「わ、わかったよ。言います。言いますから、ちょっと、下がって、ち、近い……」
ミリアはキールの目の前に立ち
今日のミリアのシャツは胸元が若干開き加減なので、気になって仕方がない。
「ああ! ミリアさん、そんなアピール方法はルール違反です! 即刻下がることを要求します!」
アステリッドがそんな状況をいち早く見抜いてミリアにクレームをつける。
「は⁉ なによ? アピールって――? 私はそんな――」
とそこまで言っておきながら、自分とキールの位置関係をここで改めて思いなおしてみると、自分の胸をキールの顔面に押し付けるような格好になっていることに初めて気づいた。
「ば、ばか! どこ見てんのよ――!?」
ミリアは思わず反射的に胸を左手で覆うと一歩下がると同時に、右手で一閃、キールの頬を打った。
まさしく、閃光――。
パシン――!
と、乾いた音が室内に響き渡る。
「いってぇ! ひどいよ、ミリア、僕何もしてないのに~」
「いや、それはキールさんが悪いと僕は思います」
「どうして?」
「わざともったいぶって、ミリアが圧力をかけるのを促していましたね? これは明らかな計画的犯罪です――」
「え? ち、ちがうよ?」
「そうだったのね――。キール、覚悟!」
「わぁああ! まったまった!」
ミリアは返しの左を振りかぶり、今にも2発目の閃光を放つ寸前だ。さすがに2発目は勘弁だ。
「落ち着けって! ちゃんと話すから――」
それからキールは昨晩の出来事を皆に伝えた。
ジルベルトから頼まれてルドという『シュニマルダ』の刺客を説得して組織を抜けさせたこと、ジルベルトとルドの二人がキールに協力してくれることになったこと、できれば二人を『シュニマルダ』から保護してやりたいと思っていること、あと、ジルベルトは普段、ここの学生に扮していることや、ルイの娼館の経営の手伝いをしていることなど、最近のキールとジルベルトの間で起きたことをすべて話した。
「キールさん、いつの
アステリッドが今度は左側から、先程のミリアと同じような態勢で
「いやいやいや、昨日の話だよ? いつ話す暇があったというんだよ?」
「いつでもあるじゃないですか? 私はキールさんの片腕なんですから、そう言う事は先に言ってもらわないと、立場がありません!」
(アステリッドくん? そんなものに任命した覚えはありません――)
とキールは思ったが、ここでそれを言っても始まらない。
「と、に、か、く! 話はどっちが先とかいう、そこが重要なことじゃなくて――」
キールが何とか強引に主導権を取りに行こうと試みた。
「そこが重要なのよ!」
「そこが重要なんです!」
完璧なシンクロだった。ミリアとアステリッドは案外いいコンビなのかもしれない、とキールは反撃に見舞われながら感じていた。
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