第104話 別格
ジルベルトは恐怖していた。
(こいつは、やべぇ――。格が違いすぎる――)
これまでいろいろな修羅場をくぐってきてはいる。
しかし、コイツは明らかに別格だ。
(しかたねぇなぁ……、奥の手を出すかぁ――)
「おまえ、強すぎるだろ――。降参だ。参った。俺に勝ち目はねぇよ。ここまで差があるとは正直思っていなかった。まあでも、あの兄貴が負けるぐらいだから当然と言えば当然なんだが――」
ジルベルトはそう言いながら、両手を上げる。
「やめだやめ。俺はもうあんたにはかかわらないよ。約束する。だから見逃しちゃくれねえか?」
「僕の前に二度と姿を見せないと、そう言うんだね?」
キールが応じる。
「ああ、そうだ。兄貴のことはもう忘れる。俺まで死んじゃ何にもならねぇんでな」
「組織の方はどうする?」
「まあなんとかなるさ。ここで死ぬよりは生き延びる可能性がありそうだ」
そう言って、ジルベルトは右手を差し出してくる。
「おまえ、これから先気を付けるんだな。そう遠くないうちに『シュニマルダ』もお前のことを知ることになるだろう。うまくやらないと、命を落としかねないぞ?」
「ああ、そうするよ。忠告ありがとう」
そう言ってキールはジルベルトの右手をとった。
(へ、かかりやがった! なんだかんだ言っても、甘ちゃんだなぁ!)
ジルベルトはこの瞬間を狙っていた。
相手を捕まえればもう逃がさない――。
『
「ははははは! 馬鹿が! そういうところがあめぇんだよぉおお!」
ジルベルトの手のひらを通じて、キールに雷が落ちたような衝撃が伝わる。
キールの体は雷に打たれたように
「まだまだぁ! ぜってぇ、離さねぇからなぁ!」
やがてキールの体は内部から炎を吹き出し、発火した。嫌なにおいが辺りに立ち込める。
「おらおら、焼け死ねぇ!」
ジルベルトは「キールの目の前で」高笑いを続けている。
ルイは状況を把握できずに呆然としていた。
「はあ、だから何度も言ってるだろう――。お前たちの様な奴の『約束』など、信じるわけがないだろう――」
キールは目の前で高笑いを続けている、ジルベルトに手をかざすと、とどめの魔法を発動した。
******
「おい、こら、お前。どういうつもりじゃ?」
白髭じじいはキールに向かってそう言った。
「ああ、ボウンさん。こんにちは」
「お前、わしを隣の家のじじいと同じように思っておらぬか?」
「へ? あ、ああ。確かに。でも、僕にとってはそんなものだよ? ボウンさん」
キールがさも当然かのように言い放つ。
「お、おい! なんなんだここは? なんでお前が生きている! そのじじいは何者だ!」
ジルベルトは自身に起きている出来事が全く理解できていない。さすがに想定以上のことが起きた時の人というのは誰しもこういう反応をするものなのだろうか。それは百戦錬磨の暗殺者であっても変わらないものらしい。
「ああ、ジルベルトくん。紹介するよ。神様だ」
キールが白髭のじじいを指してそう言った。
「はあ? 何を言ってる? 訳が分かんねえぞ!」
ジルベルトが
「うるさい奴じゃな。少し黙っておれ――」
そういうとボウンはジルベルトに向かって視線を投げた。
次の瞬間からジルベルトは「声」を失った。
さらに全身が麻痺したように動かなくなった。
「これでよし。で? どういうつもりじゃと聞いておる」
ボウンは今一度キールに向き直って言った。
「ごめんね、ボウンさん。ちょっと、どうしようか迷っちゃってね。相談なんだ。この人、僕を殺したいらしいんだけど、さすがに僕もただでやられるわけにもいかない。だから、どうにかしたいんだけどさ、でも、殺すのはちょっと後味が悪いかなぁって」
キールがボウンにそう言った。
「それとわしがどういう関係があるんじゃ、お前が勝手にすればよいことじゃろう。煮るなり焼くなり、お前が好きにすればよいじゃろうが!」
ボウンはキールに喚き返す。
「でさ、さすがにこの人も馬鹿じゃないだろうから、こんなことできるって知ったらあきらめてくれるかなぁって。で、連れてきましたぁ、てへ」
「なにが「てへ」じゃ! お前そういうキャラじゃないじゃろうが! はよ、連れてけ! もうここには連れてくるな!」
ボウンはさらに喚く。
ジルベルトは相変わらず硬直したまま口をパクパクしている。
キールはそのジルベルトが転がっているところに寄って行くと、こう言った。
「どうだい? さすがに僕に関わるのは諦めた方がいいって、わかってくれたかな? あ、そうそう、君の『雷撃』だけど、あれ、夢の話だから。僕の見せた『幻覚』だよ。だから、心配しないで、君はまだ僕を殺してはいない」
ジルベルトの目は大きく見開かれて、信じられないといった表情だ。
「僕はこれから元の世界に帰るけど、君のことを連れて帰るか今、迷っているところなんだ。僕からすれば君を殺したくはない。人を殺すのはあまり気分がよくないからね。でも、同じ世界にいたらまた狙われるかもしれない。で、それならここに置いていけばいいかとも思たってわけさ。おそらく君の力ではここから元の世界には帰れない。ここがどんなところかは僕もあまり知らないけど、さすがに食べ物も水もないようだから、お腹はすく。お腹がすくということは、生きているということで、生きている限り、食べなければ死ぬ。そういうことだ、このぐらいはわかるよね?」
キールの口調はとても落ち着いていて敵意はもう見えないが、その内容はジルベルトの背中に冷たいものを走らせるには充分なものだった。
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