第102話 夜襲


 ルイの話を上から見下ろした姿勢のまま聞く。


 コイツの約束など、ハナから信用などしていない。ただ、思っていることがそのままなら、付け入る隙はあると思っていた。

 おそらくコイツは僕に関わることを望んではいない。親父さんが死んだってのに、今でも生活も性格も何一つ変わらないどころか、金と店を手に入れて、好き勝手やっているほどだ。そんなやつが、親父さんの仇討など考えるはずもない。むしろ親父さんに叱られることが無くなってよくなったと思っているかもしれない。


 とすれば、裏に糸を引いているやつがいる。そいつはおそらくルイにとっても煙たい存在だろう。おそらく、脅されて金もむしり取られているのではないか。と、思っていたのだ。


 ルイの話は結局、キールが思っていた通りのものだった。その男は我が物顔でこの店に出入りし、ルイから活動資金と言っては金をむしり取っているという事だ。

 

「で? そいつは今どこにいる?」


「それは分からない。さっきまで一緒にいたが、俺が眠っている間にどこかへ消えた。おおかた、店の女でも抱いているんだろう。そのまま寝るつもりだと思う」


「さがせ。そして、見つけたら相手にしらせず、僕に報せるんだ。いいな? うまくいけばお前のうれいを取り除いてやれる」


「お、おう、わかった。お、おれは見逃してくれるんだろう?」


「お前が僕に近づかないなら、何もしないよ。

キールはそう返してやった。


「あ、ああ、約束だ――。じゃあ、探してくる――」

そう言ってルイは部屋を出て行った。


 このまま逃げたところで、また次の日も来るだけだ。そんなことはさすがにあの馬鹿にも理解はできるだろう。だから、そのうち戻ってくる。キールはそう確信していた。


 数分後、ルイは一人で部屋に帰ってきた。

 どうやら見つけたらしい。やはり、店の女を一人連れ込んでよろしくやった後、眠りこけているという事だ。


「よくやった。じゃあ、もう少し手伝ってもらおうか。店の男手を二人ほど用意しろ。その男に袋をかぶせて、表に連れ出す。ここで騒ぎを起こすのは面倒だからね。あ、そう言えばそいつの名前を聞いてなかったな?」


「ジルベルト、だ。それしかわからん」


 その後、店の黒服2名とキール、そしてルイの4人はその男の部屋に乗り込むと、キールは男に幻覚魔法をかける。適当な夢を見せておいて、おとなしくさせると、全く起きる気配もなく簡単に店の外に連れ出せた。


 王都から出て、少し離れた森の中の空き地を探してそこへ男を転がす。

 黒服2人は店に帰るようルイに指示させた。


 黒服たちは厄介事に巻き込まれるのが適わないと思ったのだろう。そそくさと店の方へと帰っていった。

 主人の危機かもしれないというのに、あっさりしたものだ。まあ、しかし、その判断は間違ってはいない。

 このルイという男、本当に人望がないのだな、それも仕方ないだろうが、とキールは思ったが、黒服たちの気持ちを考えればさも当然の結果だろうとも思う。


「おまえ、本当に人望がないんだな?」

キールはルイにそう投げた。

「はっ、もともとそんなものにぶら下がって俺についてきているやつらじゃないからな。結局は俺に金があるから残っているだけだ。義理や人情なんかで付いてきてる類のやつらじゃねえのさ――」

ルイはそう投げ捨てるように言った。


「そうか。なら、仕方ないな。ここでお前が死んでも、また新しい主人が生まれるだけだろうしな――」


「お、おれも殺すつもりなのか!?」


「例えばの話だよ、さっきしただろ?」


「あ、ああ、そうだったな。約束だったな――」


 つくづく可哀そうなやつだと、ルイのその様子を見て思わなくもなかったが、こういうやつに同情するのは隙を与えるだけだと頭から追い出した。


「う、ううう……、な? なんだ? 何が起きてやがる! ルイ! お前、何をした?」

ジルベルトがようやく目を覚ましたようだ。


 さあ、決着をつけるとしようか。


「ジルベルト、という名だってな? お前一体何者だ? どうして僕を狙う?」

キールは袋をかぶせられたままのジルベルトにそう告げる。


「く、くそ、縄を解け! 袋か? これを外せ!」

ジルベルトは質問に答えずに喚いた。


「ジルベルト、お、お前にはもううんざりなんだよ! 俺の金を好き放題使いやがって!」

ルイが威勢よく怒鳴り返す。


「ルイ、おまえ、親父の仇を撃ちたくないのか? そいつが親父を殺したんだぞ? いいのか!?」

ジルベルトがそれに対して怒鳴り返す。


「なるほど、ジルベルトさん、あんたあの暗殺者の関係者か。誤解がないように言っておくが、僕は殺しちゃいない。襲われたから仕方なく対応しただけだ。その後、その暗殺者とルイの親父さんが死んだことを知ったが、僕にはどうしようもなかったよ」

キールは一応そのように釈明する。


「なんだと? を切るつもりなのか!」


「どうする? 話を聞くか、今すぐ焼け死ぬか。お前も魔術師ならもうわかってるだろう? こうなってしまっては、おまえに一縷の望みもないってことをね」


「くぅっ! よ、ようしいいだろう。まずは話を聞かせろ! それからお前を血祭りにあげてやる!」


「威勢だけはいいようだけど――。まあいい。一応僕が本当の事を話してやる。それでも納得がいかないっていうのなら、仕方がない。その時は決闘を受けてやるよ?」


「袋をとれ!」


「すまないがそれは出来ない。君のことを信用は出来ないからね?」


「く、わかった。話を聞こう。取り敢えず、座らせてくれ、それぐらいいいだろう?」


 キールはルイに視線を送って、起こすように促した。 


 

  

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