第101話 招かれざる客
キールが娼館の入り口から入ろうとすると、店の従業員らしきものが行く手を
「お客さん、どんな子がいいんだい? って、お前学生か? ちょっと年齢的にここには入れられねえよ。帰った帰った――」
「お金はあるんだがな――」
そういってキールはジャラジャラと金貨を見せつける。
「こ、これはこれは、失礼いたしました。どうぞどうぞ、おーい、お一人様ご案内だ」
なんという手のひら返しか。まあ、いつの世もこういう場所というのはこんなものなのかもしれない。
少しすると店内から一人の黒服が現れて、キールを
するとその男は、一旦立ち止まり、くるりと振り返るとこう言った。
「これはこれはキール様。ルイ様のお部屋はこちらです。ついてきてくださいませ。ご案内いたします」
まったく幻覚魔法の効果とは恐ろしい。同じように人を操る「
今回は、「キールがルイの旧知の友人として親しい間柄である人間である」という幻覚を見せることにした。
「ああ、頼む」
そう返すと、男は何事もなかったかのように、店内の営業エリアではない従業員エリアの方へとキールを案内した。
しばらく男について進むと、一つの扉の前まで到達した。
「ありがとう、もういいぞ。君は仕事に戻り給え」
そうキールはその男に声をかける。幻覚魔法の問題点は、効果時間がそれほど長くないことだ。だいたい3~5分ほどしか持たない。
いつまでも一緒にいると正気に戻った時に困ることになる。
「はい、かしこまりました。それでは失礼いたします」
そう言って男はその場を去って営業エリアの方へと戻っていった。
(さあて、鬼が出るか蛇が出るか――ってこれどこの慣用句?)
ふと頭に浮かんだ慣用句を振り払い、キールは扉をノックした。
******
コンコン――。
ルイはソファで眠りこけていた。
いきなり叩かれた扉の音にめんどくさそうに体を起こす。
「なんだ? こんな時間に。俺はこの時間はいつも寝てる時間だぞ?」
「申し訳ございません。店内で少々トラブルが起きまして――」
「なにごとだ? そんなものはお前たちで対応しておけ」
「それが、そのう、相手は上級貴族の方でして、ルイ・ジェノワーズ直々に説明しろと――」
「はあ? いったい何をやらかしたんだ?」
「ええ、それを少しお話した方がと思い、ご相談に参った次第です」
「くそっ! まったく貴族ってこれだからめんどくさいんだよ。まあいい、入って話を聞かせろ――」
「はい、では失礼いたします――」
ルイはそう言いながらも辺りを見回す。ジルベルトの姿は見当たらない。大方、女でも抱きに行って、そのまま寝るつもりだろう。
(ちっ、あいつにもホントに勝手にされて、何とかならねえかな――)
などと思っている。
扉が開くとそこには、あいつが立っていた。
キール!
どうしてお前がここに? と言おうとした瞬間、顔面に大量の水を浴びせられた。
「ぶはあっ! がっ、ぺっぺっ!」
「やあ、ルイ。ちょっと話がしたくなってね。さっきの件だけど、いったいどういうつもりか説明してもらおうか?」
「な? どうして、水が? どこから?」
「うるさいよ、君。少しは落ち着いて話ができないのかい?」
ルイが顔をゆがめて、キールをにらむ。
そして、机の上の呼び鈴を目指してダッシュしようとした瞬間だった、いままでそこには何もなかったはずの足元に、高さ30センチほどの低い段差が現れていた。
ルイはそれにまともに足を引っかけて、前につんのめって転がった。
「があ! なんで、こんなところに岩が?」
さすがにもう呼び鈴までは届かない。その前にキールが覆いかぶさってくる。
ルイは床にあおむけの態勢になり、上からキールが自分の体をまたいでいる格好になっている。
「くそっ! だ、(れか――)」
という前に、キールの手がルイの口にかぶせられる。
次の瞬間、口の中に大量の水が流れ込んできた。
「~~~~~~!!」
口いっぱいになる水を吐き出したいが、キールに覆いかぶさられているうえに口を押えられている。
このままでは窒息してしまう。
「このまま殺してもいいんだけど、それだと、少し面倒なんだよ。助かりたければ、僕に協力してくれないか?」
キールは口に手を押し付けながらそう言った。
ここで、反抗したら一巻の終わりだ。こいつは魔術師なのだ。この状態で火でもつけられたら――。
ルイは首を縦に振る。今逆らっても死ぬだけだ。おとなしく言うことを聞こう。
「いい子だ、ルイ。それでいい。じゃあ、手を放すよ。言っとくけど、大声を出した瞬間、君は真っ黒こげになるから、無駄だよ。わかったね? 僕もこれ以上手荒な真似はしたくないんだ――」
キールの言葉はそう言っている。だが、その目からあふれ出る殺気は失せていない。
「――――」
キールは口から手を離すと、体の拘束を緩めてくれた。
「さて、質問だ。さっきの話、君だけの考えではないだろう? 誰が裏にいる?」
「ま、魔術師だ――」
ルイはおとなしく答える。
「どういうことだ、いきさつを話せ――」
「あ、ああ、わかった。話す、話すよ――」
ルイにしてみれば、キールもジルベルトもはっきり言って関わりたくないものたちだということがはっきりした。この際、二人がやり合ってくれて共倒れした方がありがたい。
いずれにせよ、どちらかが消えてくれれば、今より状況はましになるというものだ。
「俺も、困ってんだよ。だから、お前に協力する。約束しよう」
ルイはそう言って、キールの警戒を解こうとした。
「はん、お前の約束など、あてになるものか。まあいい、とにかく話を聞いてからだ」
キールはその態勢のままで話を聞くつもりらしい。
このままで話すしかなさそうだ――。
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