第93話 持つ者と持たざる者の世界観
「ふぅ、聞くだけでこんなに疲れる話だとは思ってもみなかったよ。キール君のそれは、まあ、正当防衛行為だろうね。ただ、それを証明することが難しいともいえるから、今しばらくはこのまま触らない方がいいのかもしれない。おそらく、あのニデリックのことだ、気づいてはいるのだろう。君の話からして、彼もその点触れない方がいいと考えている節がみられる」
デリウスがキールの「行為」について私見を述べた。しかし、それはあくまでもデリウスの考えであって、国家魔術院の考えとは全くの無関係だ。ニデリック院長がどう考えるかというのはまた次元の違う話である。
ただ、デリウスの考えがはっきりしたことで、デリウスに対する信頼度が上がったのは間違いない事実だ。
「私もそう思っています。いえ、私たち3人も、という方が正しいでしょう。ですがおっしゃる通りニデリック院長もある程度は推察していながら、キールとの契約をとられました。こうなった以上、その件についてはお流しになる可能性の方が高いといえます。公式発表もそうなっておりますし」
ミリアが相槌を打つ。
「ただね……。
キールは苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「そんなこと! 私はなんとも思っていませんよ! むしろ、話してくれてうれしくさえ思っています。キールさんは私が守ります!」
アステリッドが勢い込んで言い放った。
「ありがとう、アステリッド。でも、危ないことはできる限りしちゃダメだからね。僕はそれを望んでいないから」
キールがアステリッドへ言い含める。
ともあれ、みんなの自己紹介が終わったというところだ。残すはデリウスだけとなった。
「私は――、私は自分の理論が正しいものという確信は持っている。なぜなら私自身が、その、前世の記憶というものを持っている人間だからに他ならない。キール君の言うとおりだよ。私の記憶というのは、君たちのものとは少し違う世界のようだ。時代背景は今と大して変わらない。文明の進歩具合も現代とそう変わらない。ただ、魔法というものは存在していなかった。私の時代には「海」が世界の中心だった。人々は船を駆り、新しい大陸、新しい土地を次々と発見していった。そうしてついに人類はその世界の真理を知った――」
デリウスはそこで一旦言葉を切った。
「世界の真理、ですか。それはなんだったのですか?」
クリストファーが
「私たちは世界の果てを目指した。しかし、「果て」は存在しなかった。世界は球体だったのだよ」
「え? 果てがないですって?」
「そんな――。この世界もそうなのでしょうか? 教授」
ミリアとクリストファーが思わず
「わたしは同じだと思っているよ。世界の
ここで、読者諸兄にはすこしこの世界の設定について語らねばならないだろう。
この世界についてであるが、まず世界全体の大きさや形は地球と同じであると想像してもらっていい。もちろん世界は球体で海も存在している。太陽も月も一つずつ存在している。まさしく、地球だ。
しかし、この世界の人類はそのことをまだ知らない。
それは、この世界が存在する大陸の端がとてつもない山岳と氷原、果てしない海で囲まれているからである。この世界の国々が存在するのは一枚の広大な大陸プレートの上である。そうしてその周囲には人類が踏破不可能な自然の秘境がぐるりと囲んでいるのだ。
そのため、この世界の人類たち――と言ってもこの大陸プレートに住んでいる人類たちに限る。別の大陸があった場合、そこに住むものがこの世界をどう認識しているかは定かではない――は、その踏破不可能な土地を「世界の果て」と認識していると考えていただければよいだろう。
閑話休題――。
「そのような様々な点から、この世界も球体をしていると私はそう考えている。まあ、これも
デリウスがそう言いながら4人の顔色をうかがう。ミリアとクリストファーはあんぐりと口を開けている。そんなことがあるとは思っても見なかったという驚きの表情だ。しかし、アステリッドとキールの二人はきょとんとしている。
「ふむ、二人はあまり驚いていないようだが、なにか理由があるのかね?」
「ええ、私もそうだろうと思っていたし、そんなことみんな知っているものだと思っていました。なので、これまで別に何も言わなかったし、言われなかったので考えもしなかったのですが、あれら「果ての世界」というのが、「前人未踏」という意味ではなくて、言葉通り「世界の端」という意味だとこの世界の人は認識していたんですね――」
アステリッドはそこに驚いたという感じだろう。
「僕もアステリッドと同じ感想です。まさか、そんなふうに世界の人々が考えているなんて、思ってもいませんでしたよ」
キールもアステリッドに同意見のようだ。
まあ、普通に生活している中で、世界の大きさや形などを常に意識しているものの方が少ないのはどこの世界でも同じだろう。当たり前のように日は昇りまた沈む。当たり前にように夜が明け朝日が昇るのだ。それほどにこの世界は広い。
「二人がそう考えるのは、二人の共通点によるものかもしれない。そしてそれは私との共通点でもある。それが前世の記憶だろう――」
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