第62話 ついに知られる大魔術師の存在


 ミヒャエルは今日も大図書館前のカフェにいた。


 しかし今日はいつもとは違う。

 いつもなら二人が出てくる時間ごろまではウロウロと時間を潰しているところだが、昨日、その時間に来たときは二人の姿を見かけることは出来なかった。


 そこで今日は「キール」の職場の近くで張っておいて、「キール」の姿を確認した上で、ここまでつけてきたのだ。アステリッドがすでに中にいるかどうかは確認できなかったが、今日の対象は「キール」に絞っている。そこはあきらめることにする。


 しかしこのような尾行ももうあまり成果は得られなくなってきている。遠目から姿を追っていて得られる情報はほとんどもう手に入れたと言ってよかった。この先は相手に気付かれる危険を冒すかどうか、その一点にかかっていると言える。

 ネインリヒからの返答はもう数日先になるだろう。その内容如何によっては俺の仕事も終わりになるかもしれないなとそんなことを考えていた。


 ところが――だ。


 今日は様子が違った。

 いつもよりずいぶんと早く大図書館を出てくる二人の姿を目にしたのだ。

 いや、早いどころじゃない。

 「キール」はさっき入っていったばかりだったのだ。つまり、そこにいるアステリッドに出会うとすぐ出てきたという事だ。


 ミヒャエルはあわててコヒル茶を飲み干そうとして口に運んだが、まだ注文して間もないコヒル茶の熱さにおもわず舌を焦がしてしまった。

(くそっ、どこへ行く気だ。出るつもりなら言っておいてくれよ――。コヒルが台無しだ)

と、無理な注文を心の中で呟きながら、店を出て二人の後を追った。



******



「え? 神様ですか?」

アステリッドがキールの唐突すぎる質問に目を丸くして聞き返す。


「ああ、君は神様という存在を信じるかい?」


「存在といわれると、微妙なニュアンスが含まれますけど、実在するかといえばあまり積極的には信じられませんね」


「だよね~」


「なんなんですか急に――神様なんて」


「うん、昨日会ってきたんだよね、その神様という人に」


「はあ!? ちょ、それ大声で言わないでくださいよ? 頭のオカシイ人と一緒にいると思われたくないですから」


 アステリッドはそう言いながらも「火球」を錬成し、キールが錬成した「氷結」で作り出した「的」に向けて放ち続けている。ここはいつもの森の広場だ。


 「凍結」+「水成」を使った錬成魔法の「氷結」は、水成で生み出した水を凍結でこおらせて氷の塊を生み出す魔法だ。

 そして、「火炎」+「突風」の錬成魔法「火球」は火炎で生み出した炎を空気圧で圧縮して球上にしたものを打ち出す魔法だ。

 つまり、キールが作った氷の塊を的にして、それにめがけて火球を放って命中させるという練習をしているのだった。


 キールもアステリッドから錬成術式を学ぶことができているし、キールの錬成「4」であれば、的を次々と生み出すことも容易である。

 互いにいい練習相手といえるだろう。


 しかし、はたから見ているものからすればとんでもない高等技術の応酬だ。


 

 気づかれないように少し離れた木の陰から様子をうかがうミヒャエルはとんでもないものを目にしてしまった気分になる。

(アステリッドのほうは魔法学院の生徒だから、魔法をある程度使えるのは予想していたが、あの男、いったい何者だ? あの錬成スピードは異常だ。錬成「2」ではない、「3」、いや、まさか「4」だと――?)


 これはとんでもない情報を手に入れてしまったようだ。

 ミヒャエルは背筋に冷たいものが走る感覚を覚えていた。

 

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