第59話 神候補に選ばれました
キールは「扉」の中へ入った。
その中は、真っ白い部屋だった。
(なんだここは? ん? 何だろう、ここに来るのは初めてじゃないような気がするけど――)
「3回目、じゃな」
(ですよね、なんか覚えがある気がしたんだよな。って――)
「いつのまにそこに!?」
「それをお前が言うか? 今さきほどお前があの少女の前で同じことをやって見せたろうが? 現れるのではなく、消えるほうじゃったがな」
そう答えたのは長い白髭を生やした爺さんだった。
「ロバート・エルダー・ボウン――。ですよね、あなた?」
キールは恐る恐る
「ほう、どうしてそう思ったのじゃ?」
「ことある毎に声を聞いていて、尚且つここへ誘っているようにも思えましたし、そんなふうに思ったらなんとなくそういう気がしてきました」
「ふむ、いい勘じゃな。いかにも、我はロバート・エルダー・ボウンじゃったものじゃ。いまはちがうがの」
「まあ、そうでしょうね。あなたは生きてる人のようには思えませんし。生きていて、僕を
ボウン(だったもの)は、それを聞いてにこりと微笑んだ。
「まあ、そうじゃの。単刀直入に言おう。おまえ『神』にならんか?」
「――――――」
ボウンの言葉の意味が理解できないキールは、返す言葉が見つからない。
「いや、慌てるでない。今の話じゃない。これからずっと先の話じゃ。そうじゃな、おまえが現世での生涯を終えた後ってことでよい」
「どうして僕なんですか?」
キールはかろうじて質問を絞り出す。
「お前しかいないからじゃよ。他にお前より適任のものがおれば、そいつに声をかけるじゃろう?」
確かにボウンのいう事に筋は通っている。
ここに
「で、それって、はい、なりますって言ってなれるものなんですか? だって『神』でしょ?」
「そりゃあ簡単になれるものではないがの。しかし、素質のあるものも数百年に一人ぐらいの割合でしか生まれんのだ。これを逃したらまた数百年待たねばならんからの?」
「え~? そんなにかかるんですか? どうしよっかなぁ~」
キールはわざと悩んで見せる。
「~~~~。頼む、さすがにもう疲れた、替わってくれ」
ボウンが懇願する。
「今までも何人か候補者はいたんでしょ? どうしてなれなかったのさ?」
キールの質問は鋭い。そうなのだ、ボウンは先程こう言った。素質のあるものが数百年に一人は生まれる、と。そして、「また」待たねばならないとも言った。
つまり、最低でも一人は候補者がいたってことだ。
「だから言うとろうが、簡単には成れない、と。でもお前には目をかけておる。それがすべてじゃよ」
「ふうん。まあ悪い気はしないけどね。じゃあ、それについては考えて置くってことで今日はいいかな? そろそろ帰らないと、アステリッドが心配するからね――」
そう言ってキールは入ってきた「扉」の方へと向かおうとして、立ち止まった。
「あ、ボウンさん? 神様? まあどっちでもいいけど、あなたがあの本たちへ導いてくれたんでしょ? ありがとう、おかげでいろいろ貴重な体験をさせてもらってるよ。いいことも悪いこともあるけど、まあいいことの方が勝ってるからお礼を言っておきます――」
「いや、わしが導いたのではない。それがお前の能力、才能なのじゃ――。まあ、いずれこのことについても話す時が来るじゃろう。今はわしがここにおる事さえ分かっておればよい」
そう言ってボウンは髭を撫でている。
「また来ていいんですか? ここに」
キールがボウンに問う。
「ああ、来れるならな。いつでも来るがよい。ここに来れるという事は、そのタイミングじゃという事じゃからな」
ボウンはそう言った。
つまり、いつでも来たい時に来れるというわけではなさそうだ。
では、それはいつ? という質問はキールはしなかった。なんとなく答えはわかっている。
(僕次第ってことなんだろう――)
「あ、最後に一つだけいいですか?」
「なんじゃ?」
「前世の記憶って、回復するものなんですか? なんとなくなんですけど、まだ忘れているものが多いような気がしてるんですよね。それも含めて僕の才能ってことなんじゃないかと思うんです」
「ふむ、やはりお前、見込みがあるわ。そういう思考法は悪くないぞ? 次に会うのがまた楽しみになって来たわ。さあ、今日のところはここまでじゃ、行くがよい。わしの書を読み解けばまたいずれその時が来るじゃろう――」
そう言ったかと思うと、白い部屋は部屋ごと消失した。
キールはまだ次元のはざまに漂っている。
元の場所へ帰ろうとするが、やはりまだ慣れていないせいか、うまく動けない。
やっとのことで、アステリッドがいたあの丘との接合点を見つけると、そこから現世へと舞い戻った。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
アステリッドの姿はそこにはもうなかった。
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