チャイムが鳴る。居留守でやり過ごそうするが、二度、三度……十度以上繰り返される。どうやら、諦める気はないらしい。

 誰だよ。布団を剥ぎとる。例のごとく背中に張りつく視線を無視して、玄関に向かう。その間も、チャイムは鳴らされ続けている。

「どなたですかっ」

 扉を開けると、唯妃が立っていた。

「久しぶり」

「……何しに来たんだよ」

 思わず顔を逸らした。ついつい声もつっけんどんになってしまう。最後に会った時が会った時だけに、顔を合わせるのは気まずかった。

「お見舞いだよ。最近、ずっと会ってなかったし」

 こころなしか声は落ち着いているように聞こえた。

「帰ってくれ」

 そう口にして、扉を閉じようとする。

 直後。上半身に柔らかい感触。数瞬遅れて、何が起こったのか理解する。

「大丈夫、だから」

 耳元。唯妃の囁きが沁みこんでいく。ただただ優しい。

「この間は、ごめんね。君の事情をよく考えないまま、私の気持ちばかり押し付けていたね」

 引き剥がしたいという気持ちがないかといえば、噓になる。けれども、それ以上に今あるのは、安堵だった。

 温もり。柔らかさ。優しさ。

 これが欲しかったものなんだと、実感を深めた。

「君の心と体が平気になるまで、ずっとずっと、そばにいるから」

 もう、大丈夫だ。そう思う。

 途端にやってくる眠気。久々に安らかに寝れそうだった。






 意識を失う直前、聞き覚えのある高笑いが聞こえて……

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