六
そんな生活が
「辛いのはわかるけど、もう飲まない方がいいって」
学内のミルクホールで、顰め面の唯妃と向き合っている。こころなしか、彼女の輪郭もぐらついている気がした。
「そう……言われてもさ」
怖いんだ。その言葉を飲みこむ。ちんけなプライドだった。
「先輩たちも可愛がってくれるし、せっかくの好意を無碍にするわけにも……」
「その先輩たちも心配してるんだけどなあ。この間も、あいつ大丈夫か? って言ってたし」
逃げ道を即座に塞がれる。
……頭が痛い。
「ねえ、もう一回警察に行ってみない? それか病院に行ってみてもいいし。とにかくとにかく、酒の飲み過ぎは体にも心にも良くないし」
気遣う声。けれど、少しカチンと来る。
「そもそも君、そんなにお酒強くないじゃん。こんな生活を続けたら本当に壊れちゃうよ」
心配されているというのはわかっているし、どれもこれも正論だ。けど、そんなのは俺だってわかってんだよ。
「だからね。一回お酒飲むの止めてのんびりしよう。大丈夫。私がついてるから」
「……っさい」
「えっ?」
「うっさいって言ってんだよ!」
ポカンとした唯妃の顔。なにもわかってなさそうなのが余計癇に障った。
「俺の気持ち、わかるか? わかんないよな? だから、そんな簡単に酒飲むの止めろとか言えるんだよな」
「それは、わかるとは言い切れないけど……」
途端に歯切れが悪くなる。ほら、やっぱり。
「俺の気持ちがわかんないから、わかった振りして気持ち良くなってるだけだろ」
「そんなんじゃ……」
「じゃなきゃ、そんな簡単に飲むのを止めろなんて言えやしない。俺がどれだけ苦しんで、飲まざるを得ないか、わかってないんだろ。なぁ!」
「ご、ごめん。だけど、私は君が」
「そんな風にわかった振りされても、鬱陶しいだけなんだよ!」
言ってやった。心が少しだけすっとする。
不意に女の頬をツーッとつたうひとしずく。頭がスーッと冷える。両目を押さえた唯妃が立ち上がるや否や、走りだした。
待ってくれ、と呼び止めようとしたが、今更どの口が言うんだ、と我に帰る。
ただの八つ当たりだ。すぐさま自覚したものの、時は戻せない。電話やメール、ラインを送る気力も湧いてこない。
周囲からは、ミルクホールにいた学生や講師、そして背後からの視線。……自然と溜め息が漏れた。
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