……けれど、いつか現実と向き合わなければならなくなる。

 小便が近くなって席を立ったり、一人で吐くためにトイレに行く途中、視線が張りつきはじめる。ゆっくり歩いても、走っても、付きまとってくる。存在感が増した何かの眼差しは、舌なめずりをする獣を思わせた。それでいて、覚悟を決めて振り向いてみれば、やっぱり誰もいない。

 いるはずなのに、いない。せめて、酒盛りしてる誰かが着いてきてるだけだったらいいのに。ほっとしていいのやら、怖がっていいのやら、わからないでいる間に、便器に辿りつかないまますべてを廊下に垂れ流してしまうこともしばしばだった。そして、酔いが醒めたら醒めたで、また視線が張りついてくる。

 だから、ほぼほぼ毎日、先輩たちの家を渡り歩いて、飲み会ついでに泊りこんで、できるだけ早く寝てしまおうとした。体よくいつも夢の世界にいけるわけではなかったし、仮に眠ることができても、悪夢に苛まれたりもしたが、起きているよりはましだった。


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