それから一週間ほど。日に日に、後ろにある気配は、濃くなっていった。どころか以前は帰り道だけだった後ろにいる感覚は、その他の日常にも侵蝕してきた。

 たとえば大教室での講義中。たとえば同じサークルの友人たちと歩いている時。たとえば食事の買出し中。

 いたるところで視線を感じ振り向いてみるものの、誰もいないか、さもなければ不自然なほど誰もこっちを見ていなかった。

 より犯人がいる可能性が高そうな大教室内で、いつもいる人間はいないかと探ってみたものの、少なくとも該当する講義の全てに参加しているうえでずっと俺の背後に陣取っている人間はいなかった。なんなら一番後ろの席にいる時ですら視線を感じる時もあった。

 これは本格的に、病気を疑わないといけないやつじゃないのか? 幾度も視線を感じた末に、自分自身に対しての疑いばかりが強まった。果たして、俺は正常なのだろうか? 正常……だと思いたいけど、ありえない場所ですら誰かしらの視線を感じる時点で、もはや異常の側に天秤が傾いているのではないのか……ただただ不安は膨らむばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る