それから数日にわたって、外でなにかの気配を感じていた俺は、

「警察に相談とかした?」

 彼女の久戸唯妃ひさとゆいに気配のことを話していた。というよりも、唯妃に半ば無理やり聞きだされた。

「行ったよ。パトロールを強化してくれるとは言ってくれたけど……」

「まっ、そうなるか。下手したら、心の病気と思われてるかもね」

 深刻そうな顔をした唯妃。その真っ赤な唇に目がいく。

「そんな病気、あるのか?」

「うん。幻覚みたいなやつで」

 頷く彼女の言葉。俺はその可能性を否定しきれないと思う。なにせ、いまだに俺は追跡者の姿すら目におさめていないのだから。

「俺が気にし過ぎてるだけ、なのかな?」

「さあ、どうだろうね。けど、実際のところ噓か本当かっていうのはあんまり関係ないのかもしれないね」

「それ、どういう意味だ?」

 尋ねれば、唯妃は、そのままの意味だよ、と口にする。

「さしあたって今重要なのは、君がその誰かの存在を感じとっているかどうかってことでしょ? たしかに実際にいる犯人が捕まってくれるのが一番わかりやすいけど、もっといいのは全部気のせいで、いつの間にか誰かの存在を感じなくなるってことじゃない?」

 追いかけている人が誰もいないならいないで、誰も悪者にならないで済むし。そう付け加えた唯妃は、ねぇ、そうでしょう、と薄く微笑む。

「そう……かもしれないな」

 正直、俺としてはさっさと犯人が捕まってくれればいいと思ってたし、身内以外であれば誰が捕まろうと知ったこっちゃない。けど、穏便な解決を彼女が望んでいるのであれば、それに越したことはないだろう。

「そうでしょそうでしょ。けど、君が怖いままなのは、困りもんだね。一番大事なのは君の心と体なんだから。う~ん。どうしたらいいのかなぁ」

 腕を組んで眉に皺を寄せる彼女を見ながら、こんなに俺のために悩んでくれる人がいるんだ、と少しだけ心が和んだ。

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