第7話 込めて込めて込めて
部長と話して以来、私はあることと戦っていた。
時間。
学校の時間と睡眠時間、必要最低限の生活の時間を24時間から引くと、音楽に費やせる時間が足りない。
やりたいとできる時間がつり合わない生活に私はイライラしながら、音を重ねる。
音選びに苦戦しながら。
好きなだけ音を並べるにも、約15秒のソロパートを作るにも、私にはパッと決められるほどの技術がない。
ピタッとはまるパズルのような音の繋ぎが浮かばなかった。
『頭が音楽でいっぱい』というのが正解なのか、『心が音楽にとらわれている』というのが正解なのかわからない日々を送る私にとって、休日はものすごく貴重だった。
6時間分の授業時間をすべて音楽に、いや、誰かと会話する時間や食事の時間もほとんど音に対して宛てることができたからだ。
作りたい。創りたい。尽くしたい。
感情は音楽にささげた。妥協ができなかった。
そういう性格だって、恋をして知った。
いつだって欲張りだ。
欲張りだから1番になれなくて悔しかったんだ。
欲張りだから部長に褒められて、期待されて嬉しかったんだ。
欲張りだから、音楽ばっかなのに彼を想ってしまうんだ。
全然違う〝好き〟を重ねて。
音にしてしまいたい。
この好きを。
だから想像した。誰もいない、ピアノの置いてある部屋で。
想像した。駆け抜ける横溝くんを。
想像した。青空に向かって吹くホルンを。
……想像した。好きを音にしてしまう自分を。
時間とともに、固まっていく想像。それと比例するように音は形になっていった。
――疾走感。連続した音がソロパート終わりまで走り抜けるような、そんな音ができた。
前後との組み合わせから考えても浮きはしない。むしろサビ手前の盛り上げには十分なほど迫力があると思う。
でも、でも……。
この音にほかのパートはついてきてくれる気がしなかった。
そこだけが心に引っかかって、迷った末、私が向かうのは1つしかなくて、重宝していた休日の時間が溶けるの待つ。
――そんなわけなんてなかった。
待てないよ。
音は心なんだから。
できた疾走感は私の焦りだから。
私が、とどまってられないから。
濃い。
日々の濃度がいままで感じたことないくらいに濃かった。
やりたいが詰まった時間。叫びたいほどの音を詰めた時間。
15秒のオリジナルを繰り返し練習して、頭で理解したのは、これが私がしたかったことだっていうこと。
何日もかけて、自分ひとりじゃ形になんてならなかった。憧れで終わっていた。部長がいなかったらできなかった。横溝くんがいなかったらできなかった。なのに成果はそれしか感じることができない。
だけど、だけど! それでよかった。これがよかった。
心が軽い。
数年間凍り付いた音楽への想いが、全部溶けだしたんだと思う。
固まっていた私の音楽が壊れたんだと思う。
部長が言っていた『変わっていい』の意味がやっと理解できた。
変わることでこんなにも気持ちの枷が外れるなんて知らなかった。
好き。
今までと違う好きを吐いた気がした。
音楽が好き。でも私の音はもっと好きだ。
ポーンっと突き出たそんな感情は、まるでポップコーンのように弾けた──。
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