第五話 村民大移動

 いよいよ発表の日となった。集会所には前回の倍以上の人数が集まっていた。まず天台が開会のあいさつをして、そのあと都賀が計画の内容を話した。

 村のみんながざわついた。戸惑う者や、ここから離れたくないと言って騒ぐ者が、続々と現れた。集会所は大混乱となった。都賀が落ち着くように促すも、一向に騒ぎが収まる気配はない。そこで都賀は「みんなの疑問や不安はしっかり聴くから」と穏やかな口調で言った。すると、不思議なことに騒ぎが収まった。どうやら我に返ったらしい。都賀はホッとした。


 二日後、村の人々は持てるだけの家財道具をまとめ終わり、また、救い隊は村の人々の住んでいる場所ごとの区分けが終わり、ついに輸送計画を実行することとなった。

「高品さんが輸送機に人々を誘導して、不安になっている子供には亥鼻さんと弁天さんが声をかけて、不安を和らげてください。宮野さんは天台家に昔から伝わっている品々をまとめてください。松波さんは町内会総出でおにぎりや味噌汁が入った弁当をつくり、機内の人々に配ってください。天台さんと更科さんは輸送機の運転を頼みます。操作方法が書かれた本を操縦室に置いてあるので安心してください」

 都賀は隊員に指示を出した。順調に準備が進み、一回目の出発ができるようになった。天台と更科以外の隊員は都賀と一緒に、モニター室から見ながら輸送を見守った。操縦室では天台と更科が、もう一度確認するために本を読み込んでいた。

「『この機体は運転手が念じることで動く』念じて動かす。よし。『万が一集中力が切れそうになったら、一度深呼吸をする』深呼吸をする。よし」

二人は文章を声に出して確認しあった。初めて運転するので少し不安だったが、都賀が事前に手作りのお守りを二人に渡していたおかげで、二人は不安や緊張が和らいだ。

 都賀が出発合図を出した。二人は深呼吸をして「動け、飛べ」と強く念じた。機体はみるみる上昇した。三分三十秒後、高度七百メートル地点都賀が地上から地下世界へ入ったときの穴に到達し、中に入っていった。一分後、操縦室からモニター室に「ついに地上に到達した」と報告があった。ただちに一回目の輸送は成功したとの知らせが、機内や、村で二回目、三回目の出発を待っている人に伝わり、大歓声が沸き起こった。 二回目の輸送も順調に進み、三回目の輸送となった。残った人の数は一回目と二回目に比べると少なく、部屋に空きがあった。だから、これから出発する人たちの家財道具に加えて、すでに地上に行った人たちの家財道具も積めるだけ積んだ。準備が整い、都賀や他の隊員は操縦室に入った。都賀が大声で出発合図を出すと機体はゆっくりと上がった。しかし、ゆっくりすぎた。どうやら、荷物を積みすぎたらしい。

 都賀や他の隊員は慌てて「動け、がんばれ、飛べ」と念じた。しかし、突然のことで集中できなかったため、強く念じられなかった。やがて機体は浮くのがやっとといった状況になった。隊員たちのあいだにはあきらめムードが広がっていた。それでも都賀ひとりだけは必死に念じていた。

「みんなのおかげでここまでできたんだ。絶対に成功させてやる」

都賀の独り言はささやき声ほどだったが、隊員たちにはしっかり聞こえていた。

 あきらめムードは一気に消え去り操縦室には「わっしょぉおい、よいしょぉおい」と奮い立たせる掛け声が響き渡った。機体は急加速して、わずか二分で地上に到達した。先に地上に来た人やあとから地上に来た人みんなにお祝いムードが広がった。 

 ところが都賀は一言も発さなかった。おかしい。なんと都賀が倒れていたのだ。天台がいちばんに駆け寄り、高品が都賀を部屋に運んだ。あの手この手で都賀を手当てしたが、その日の夕方に都賀は意識を取り戻さず亡くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る