第三話 ブメフカ村
都賀が目を覚ますと女性が横にいた。女性は都賀が起きたことに気づき
「あなた。足に痛みはない? 大丈夫?」と都賀に聞いてきた。瞬間、都賀は足をケガをしたことに気づき、じわじわと痛みが伝わってきた。
「ううう、痛い」と静かに都賀は言った。女性は「安静にしていればすぐに治るよ」と言い、都賀に名前を尋ねた。
「都賀一(つがはじめ)です。十七歳です。あなたの名前は?」
都賀は痛みを堪えながら小さい声で名前を言った。
「都賀さんね。私は天台創代(あまうてなそよ)、十六歳だよ。よろしくね。」
天台は自己紹介したあと、都賀にどこから来たのか問い始めた。都賀はこれまでの経緯をどう説明すればよいのか迷った。しかし「隠し事をすると怪しまれてしまう」と思い、正直に話した。天台は真剣に話を聴いた。
「つまり、あなたは空からやってきた。そういうこと?」
都賀が話し終わると天台は落ち着いた声で言った。都賀がゆっくりうなずくと、天台は左手を曲げて喜んだ。「なぜ喜んでいるのか」と思った都賀が天台に理由を聞くと、天台は「これから私の家に代々伝わるお話をあなたに特別に聞かせるね」と言った。そして、二十分近く都賀にそのお話を語った。
要約すると「世界を巻き込む大戦争があった。戦争は泥沼化し、人々は地下に逃げ込んだ。地上ではまだ戦っている者がいて、続々と禁じ手を使うようになった。とうとう大爆発が起こり大地は汚れてしまった。一方、地下に逃げ込んだ彼らは人種・国籍を問わず助け合い、栄えていった。しかし、それは長くは続かず、やがて限界がくるだろう。そんなとき、空から救い主がやってきて、私たちを導いてくださる」とのことらしい。
都賀は疑いながらそのお話を聴いた。しかし、よく聴いてみると星書と似ている箇所もあり、都賀はそのお話を信じることにした。話が終わり天台は
「このお話をあなたに聞かせた理由はね。あなた、さっき私が『空から来た?』って言ったらうなずいたでしょ?」と言った。都賀は若干嫌な予感がした。
「それで私、確信したの。あなたはお話にあった救い主だと」と天台は右腕をピンと伸ばして言った。
都賀は「まさか救い主だと思われるなんて」と戸惑った。また「ここが地下だなんて」と思った。都賀は天台に外を見たいと言い、天台が窓のカーテンを開けた。外を見ると、木造の平屋が所狭しと建っていて、舗装されていない道の片側には木製の電柱が等間隔で並んでいた。街灯も設置されていた。遠くを見ると山があり、斜面には棚田があった。青い空も広がっていた。そこには一九六○年代の農村の景色が広がっていた。
都賀は大穴に落ちたことをしっかり覚えていた。だから、地面の中に入ってしまったはずなのに、見上げると空が広がっているこの光景に都賀は訳がわからなくなった。
都賀は「天台さん。ここはどこですか?」と言うと、天台は「えっとね。ここは文明復活の要となる村。『通称ブメフカ村』だよ」
と笑顔で言った。
「へえ。『文明復活の要の村』か、なんかいいね。かっこいい」
「えへへ。ありがとう」
少し間が空いて天台は「ねえ、都賀さん。この地を救ってくれない?」と唐突に都賀に頼み事をした。都賀は「えっ、う、うちがこの地を救う? ううう、うちが?」と聞き返した。天台は首を縦に振った。
都賀は腕を組み、目をつぶり、三分ほど考え込んだ。悩みに悩んだ末、都賀は救い主になることを決断した。
待ってましたとばかりに天台は足をけがしている都賀を車椅子に乗せて、村の集会所に連れて行った。集会所は外にあり、多くの人がいた。盛大な式が執り行われ、その日の夜、都賀は救い主となった。
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