第5話 憧れてた青春
次の日から、めんどくさがり屋の私がいつもより一時間も早く起きて、髪の毛もセットして初めてメイクもした。
鏡で何度もチェックする。登校中で崩れちゃうかもしれないけどそんなの関係ない。
隼人くんが自慢できるような彼女になれるように努力しよう。
隼人くんの好きな女の子になれるように。
そんな願いを込めて、髪の毛をいつもより高めにきつく結んだ。
「りあ、おはよう!」
「…うそ」
登校中、名前を呼ばれて振り返ると隼人くんの姿。
「え、隼人くん!おはよっ」
今まで朝同じ時間に登校することなんてなかったのに。
一瞬ドキッとした。
偶然かもしれないけど、小さな奇跡。
隼人くんが目を細めて、にっこりと笑う。笑顔がいつもより何倍も輝いて見える。
鼓動が高鳴るのがわかる。
「隼人くん、今日のテスト自信ある?」
隼人君のために可愛くしてきたんだよ!
やっぱり、気づかないかな?鈍感だもんね、隼人くん。
ちょっと寂しかったけど、また頑張ろう。
「うーん、昨日あんまり勉強できなかったからなぁ。」
隼人君のできてないって、いつもできちゃうんだよね。
「私も、あんまり進まなかった。寝っちゃったよー。隼人くんならできるよ!頑張っ てね!」
「ありがとう。りあも頑張ってね。」
初めて名前呼ばれた。何回もみんなに「りあ」ってよばれてきたけど、なんか照れ臭かった。名前呼ばれるだけでこんなに嬉しいんだ。
教室までの数メートルだけど、ドキドキした。
横に並んでいる隼人君の顔はいつも通りの優しそうな笑顔だった。
太陽のような笑顔。ずっと隣で見ていれたらいいな。
隼人くんのこともっとちゃんと知りたい。
きっと知れば知るほど好きになれる気がするから。
でも、こんな順調に進んでていいの?幸せの反面どんどん怖くなった。
心の隅に残っている翔くんの存在に今日も気づかないふりをして、少し前を歩く隼人くんの後を追いかけた。
テスト明けの学校、1 学期ももうすぐ終わるということでほとんどの授業で席替えをした。隼人くんとも翔くんとも理科と社会の選択が同じだから、移動教室も全部一緒。もちろん心優も。
まず、HR教室。一番大事。ドキドキしながら級長が配るくじを引いた。
「せーの。」
全員に配り終わった後、一斉にくじを開いて、席を確認した。
新しい席に着くと、右が隼人くん、左が心優、そして前が翔くんだった。
…噓でしょ。こんな最高の席ある?
また奇跡が起こった!?
「心優―!となりじゃん!やったね。」
隼人くんのほう見る勇気がなくて、真っ先に心優に話しかけた。
「え、違うでしょ?あんたが喜んでるのは右でしょ?」
え、バレてる?私、顔緩んでた?
「ちょ、聞こえるじゃん。クラスではトップシークレットなんだよ。」
多分、また顔赤くなってる。
「わかったわかった。よかったね!でも、あんまりラ ブラブしないでよ。」
次の物理の席替えでも、化学も、生物の席替えでも、隼人くんと隣になった。
…さすがに偶々だよね?でも、自分でも馬鹿だと思うけど、この時信じたくなった。
「運命」とか「奇跡」というものを。
毎日楽しくて、幸せいっぱいだった。偶然が重なって「運命」さえ信じたくなった。
だから、この幸せがずっと続くと信じてたかったんだ。
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