9.暗転の章 開戦
「森の呪縛は解かれた。今こそ立ち上がるときだ!」
森の主は指揮を執る。
「思い出せ。異端と蔑まれ、差別され、愛する者に裏切られた悲しみを、怒りを、憎しみを! 悪の一族を根絶やしにし、こんな状況に追い込んだ者たちに制裁を!」
少女を殺した者たちを消すために。
全てを終わらせるために。
「リージン! 領民に危害を加えるな。彼らは操られているだけだ」
賢い狼は異議を唱えるも、逆賊として捕らえられた。
「アタシのアリスを、可愛いアリスを殺したマジョランなど、この手で血祭りにあげてやるわ!」
猫神はドラゴンへと姿を変え、復讐の焔を燃やす。
哀れ、異端たちは己が駒として使われようとしていることに気づかない。彼らは、もうマジョランを滅ぼすことしか頭にない。
「我々の自由と平等のために、邪魔をする者は皆敵だ! 今こそ、革命を!」
主は異端を率いて、今、森の出口、結界の結び目を跨ぐ。
一方、異端の森の反対に位置する森。その前にはマジョラン家一族と領民たちが集まっていた。領民たちの前に立ち、当主は言霊を紡ぐ。
「皆に聞いてほしい。あの森には以前から近づかないように言っていましたね。あそこには、凶悪で、処分することも出来ない、最悪な異端たちが収容されているのです」
領民たちは驚愕する。そんなことをなぜ今まで黙っていたのか。さらに当主は続ける。
「黙っていてすみません。皆を不安にさせたくなかったのです。結界を張り、奴らが出てこられないように、私たちマジョランは見張っていました。しかし先程、異端が二匹現れ、森の結界が解かれてしまった」
当主は一度言葉を切り、領民たちを見渡す。
「力を貸してほしいのです。奴らは必ずマジョラン一族を殺しに来る。もし殺されてしまえば、愛する貴方たちを守ることは出来ない。どうか、私と共に戦ってほしい」
当主の言霊は領民の心にスルリと入り込み、心の奥に溜まる。積もり積もった言霊は領民たちから思考を奪う。
"マジョラン家の皆様が自分を必要としている"
"愛しい皆様はやはり自分を愛してくれている"
"愛しい愛しい皆様の命は己の命にかえても守ってみせよう"
"そうすれば、きっと自分を一番に愛してくださる"
狂気の群衆が出来上がった。マジョラン一族はニヤリと笑う。愚かな者共よ、目が覚めたときが見物だな。
しかし、そんな笑みも狂った目には安堵の表情に見え、彼らはさらに愛しさを募らせる。
ふと、異端の森の方から咆哮が聞こえた。当主は声を張り上げる。
「異端狩りだ!」
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