第2話 水の罠

 洞穴兎は2階層へとたどり着いていた。

 風景は様変わりし、苔に覆われ緑に覆われている。

 冷たく湿った風が時折、通り抜けた。

 所々に水たまりがあり水棲の魔物が徘徊している。

「流石にここまで逃げれば安心だろうな」

 洞穴兎は、少し仮眠を取り寛いでいた。


 ケロケロ……、ケロケロ……。

 地下蛙ブルトードの鳴き声に洞穴兎は目を覚ました。

「迷い込んだのなら帰ると良いケロケロ♪」

「恐ろしい奴が来ていて避難しているんだ」

 引きずる音が近づいてくる。

 それは棺桶から発せられていた。

 洞穴兎は心臓が凍るような恐怖を感じる。

「どうしたケロケロ♪」

 地下蛙は呑気に歌混じりに話をする。

 彼らの本能と言うか、生まれ持った特性だから仕方ないのだろう。

 どんな状況でも楽しそうにしているように見えてしまう。


「逃げないと殺される」

「解った、慎重についてくるケロケロ♪」

 地下蛙は水辺に浮かぶ巨大な丸い水の葉に飛び乗った。

 ダンジョンにはギミックと呼ばれる仕掛けがある。

 この水の葉もその類だ。

 地下蛙はどんどん奥の水の葉に飛び移っていった。

 後は対岸にたどり着くという所まで来ていた。

「よく水面の影を見て注意して渡るんだケロケロ♪」

 洞穴兎は水面を見ようとした時だった。

 ドバッと水中から巨大な魚が顔をだし地下蛙を一飲みにした。

 ギミックには差別なく等しく死を与える。

 それがここの決まりごとだった。


「おい……」

 後ろから迫る引きずるの音が迫っている。

 洞穴兎は泳ぐ魚の影が離れるのを待って、奥へと進んだ。

 

 天井につる草が伸び、そこに光る実が辺りを明るくしていた。

 人々の世界で見た祭りの景色に見え、提灯の明かりのようで賑やかな雰囲気がそこにはあった。

 水面に浮かぶ小さな陸地で立ち止まる。

 遠くに見える水の葉が見えるが、そこまで飛べる自信はない。

 戻るしかないかに思え洞穴兎は振り向く。

 

 水しぶきが上がり、迫ってくる者がいるのが見える。

 もしかするとギミックでと期待しつつ洞穴兎は様子を見ていた。

 水面から飛び出すあの巨大な魚の口は侵入者を飲み込むには十分な大きさだ。

 激しい揺れと衝撃音が響いたと思ったら、巨大な魚は洞窟の壁に叩きつけられ気を失っていた。


「本物の化け物……」

 洞穴兎は死を待つしかなかった。

 背後から水にポチャリと落ちる音が聞こえ振り返る。

 振動で、蔓草の光る実が落ちたのだった。


 水の葉がゆっくり動き沈んだ光る実を追うように動いた。

「ギミックだ」

 洞穴兎は、側にあった光る実を咥えると、近くに落とした。

 水の葉が寄ってくる。

 洞穴兎は水面の巨大な魚の影に注意しながら、ギミックを利用し奥へと逃げたのだった。

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