第39話:赤根さんは「好き」と言わせる
***
幸せな気分のままゲーセンから出た。
気がついたらもう6時を回っていた。
ヤバい。そろそろ帰らなきゃ。
夏だからまだ明るいはずなのに、空が曇って薄暗い。
雨が降るかもしれないから、早く帰らないと。
だけど"素敵な作戦“はぜひともやりたい。
だからゲーセンの前の道路で、ガタニ君と向かい合って立った。
そして彼を見上げる。
「あのさガタニ君。これ選んでくれてありがとう」
言って、片手でイヤリングに触れる。
彼が私の顔を見た。
うわ、緊張する!
「うん」
「ガタニ君、この色好き?」
彼の目を見つめる。
ガタニ君も優しく見つめ返してくれてる。
優しい瞳にドキドキが高まる。
「あ、うん。好き」
──ふわぅっ!!
ヤバっ! これヤバっっ!
予想した通り、まるで愛の告白をされてるみたいだ。
えへへ。えへへへへへ。
脳内がメロメロになって、ほおが緩む。
「ど、どうしたの赤根さん。大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。じゃあ帰ろっか」
うっわヤバかった。今、完全に意識がトンでたよ。
変な子だって思われたかな。
心配したけど、ガタニ君は特に気にする様子もなかった。よかった。
それから雑談しながら駅まで歩いた。
ちょうど駅に着いたところで、とうとう空が泣き出した。結構大粒の雨だ。
駅舎の建物内に入り、お互いの服を確認した。
ほとんど濡れていない。
うん、タイミングがよかったね。
私とガタニ君は違う電車に乗るから、改札をくぐったらそこでお別れ。
この雨は、これでデートも終わりだと悲しむ私の心の表われみたいだ。
その時、突然ガタニ君が気づいた。
「あれ? 赤根さん、イヤリングが片方ないよ」
「え……?」
指先で耳に触れると、確かに右耳のイヤリングがない。
どこかで落としたんだ。
背筋がさぁーっと冷たくなる。
せっかくガタニ君に選んでもらったのに。
もう失くしてしまうなんて。
…………私のバカっ!
バカバカバカっ!
あまりに悲しくて涙が滲む。
「俺、来た道を探しに戻るよ」
駅の外を見ると、景色が煙るほどの大雨が降っていた。
こんな雨の中、小さなイヤリングを探すなんて無理だ。傘がないからずぶ濡れになるし。
「いや、いいよ。この雨だし、諦める」
「ホントに? 大丈夫か?」
「うん……仕方ない」
この雨の中、傘もないのに探しに戻るわけにはいかない。
私が一人で行くなんて言ったら、優しいガタニ君は手伝うって絶対に言うし。
でも悲しい顔をしたら心配させちゃう。
ここは平気なフリをしなきゃ。
「まあイヤリングはまた買えばいいよ、あはは! 今度また、お買い物に付き合ってくれるかなぁー?」
「うん、もちろん」
「よしっ! それなら全然大丈夫だからねっ! じゃあ帰ろっ!」
努めて明るく笑顔を浮かべる。
ガタニ君は少し不安そうな顔をしながらも、うなずいてくれた。
「う、うん……」
二人で改札を抜けた。
すぐに左右に分かれる通路がある。
ガタニ君と私は違うホームから電車に乗るから、ここでお別れだ。
「じゃあまたね!」
「うん。気をつけて帰れよ」
「ありがとーっ!!」
大きく手を振って別れた。
そして電車に乗車。
車窓から外を見ると、打ちつける雨粒。
やっぱり私の涙みたいだ。
あ〜あ。
失敗したなぁ。悲しいなぁ。
また涙が溢れそうになる。
肩にかけたトートバッグを開いて、ハンカチを探す。
あれっ?
バックの中で光るコレは……。
ああーっ、イヤリング!!
バックの中に落ちてた!
知らない間に耳から取れて、肩にかけた鞄の中に偶然落ちたんだ。
はぁ〜、よかったぁ。
今度は嬉しくて涙が出そうだ。
──あっ、そうだ! ガタニ君に教えてあげないと。
優しい彼だもん。きっと心配してくれてるもんね。
早く安心させてあげたい。
そう思って電話をかけた。
「あ、もしもしガタニ君。イヤリング見つかったよ。カバンの中に落ちてた」
「そっかよかった」
──ん?
ガタニ君の周りが騒がしい。
ざぁーざぁーという雨のような音。
そしてなぜかゲームセンターの電子音が聞こえる。
もしかしてガタニ君──
「ゲーセンまで、イヤリング探しに戻ってるの?」
「あ、うん……」
ちょっと言いにくそうにガタニ君が呟いた。
傘も持ってないのに、わざわざ探しに行く?
まさかそんな……
いや、ガタニ君なら充分可能性はある。
彼の優しさに涙が溢れそうになった。
「私も●●駅に戻るから待ってて!」
そう言って電話を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます