第38話:赤根さんはゲーセンに行く

♡ ♡ ♡


「次はどこ行く?」


 雑貨屋さんを出て店の前で、祈るような気持ちでガタニ君に訊いた。


 彼に伝えてある今日の目的はイヤリングを買うこと。

 だから『用事は済んだし帰ろう』なんて言われたらどうしようかと、そんなことは言わないでと祈りながらの言葉。


「そうだなぁ。あんまりいい案が浮かばないけど……赤根さんはゲーセンなんか行ったりする?」

「ゲーセンかぁ。あんまり行かないけど……」


 ゲーセンって言えばプリクラ?

 も、もしかしてガタニ君は私との思い出を形に残したいとかっ!?


 そして顔寄せ合ってシャッターが下りる瞬間に、チュってするぅ〜!?

 うわ、どうしよう。早速大作戦のチャンスがやってきた?


 ああ、ちょっと待って!

 まだ心の準備が……。


「あ、やっぱいい案じゃなかったかな。ごめん」


 あ、しまった!

 一人で妄想の世界に入り込んでしまったから、私が気乗りしないと思われたみたい。


「ちち違うよ! あんまり行かないからこそ、たまには行ってみたいなぁって」

「そう?」

「ガタニ君はゲーセンでなにするの? プリクラ?」

「ああ、いやいやっ! プリクラ撮ろうって誘ったわけじゃないよ。俺、プリクラなんて撮ったことないし」

「そうなんだ……」


 違うかった。私一人、妄想で盛り上がってただけだった。

 ……なぁーんだ。ちぇっ。


「最近のゲーセンって、ガチャガチャがすっごく充実してるとこがあってさ。色々と面白いアイテムがあるから、赤根さん喜ぶかなぁって思って」


 ──あ。私を喜ばせようとしてくれてるんだ。

 やっぱり優しいな。


「うん! 行こ! 私、ゲーセンめっちゃ行きたくなってきた!」

「そう? 無理してないか?」

「ううん、全然。ホントに行きたい」


 うん、ガタニ君と一緒なら、どこへ行ったって楽しいよ。例え南極だって楽しい。


「そっか良かった。じゃあゲーセン行こうか」

「うん!」


 あ、そうだ。せっかく買ったイヤリング。

 どうせなら、今付けよう。


 買ったばかりのイヤリングを紙袋から取り出して、左右の耳に付ける。


「どう?」

「あ、うん。……にに、似合ってる」


 ガタニ君は照れくさそうに言ってくれた。

 赤い顔して可愛いな。


 雑貨屋さんからしばらく歩いて、大型のゲームセンターに入った。

 そしてガチャガチャコーナーに直行。


 ガタニ君は「変猫へんねこ」っていう、変な顔した猫キャラのガチャをやった。


 コロンと出てきたボールをガタニ君は必死になって開けてる。

「んしょんしょ」とか言って可愛い。


 ゲットしたのはなぜか金色のネコの小さな人形。

 レアアイテムだって子供みたいに喜んでる。可愛い。


 他にも二人でいくつか、変なグッズのガチャばかりした。

 ガタニ君は私が好きなウサギのキャラ人形を引き当てて、私にプレゼントしてくれた。


 嬉しい。末代までの宝物にしよう。

 こういうのも面白いな。楽しい。


 ──で。


 ガチャガチャを終えて、さあゲーセンを出ようかっていう雰囲気になったんだけど……。


 やっぱりプリクラ撮りたい。

 ガタニ君と二人で撮りたい。


 そしたらいつでも彼と二人の写真を眺めてニヨニヨできるし。


「あのさガタニ君。プリクラ撮らない?」

「え?」

「あ、あ、あ、ほらさっき、プリクラ撮ったことないって言ってたじゃん。だからさ、後学のために体験しといた方がいいんじゃないかなぁって」

「後学のためか」

「そうそう後学のため! 将来、自分のためになる知識だよ!!」


 うわ、ついつい無理矢理こじつけちゃったよ。

 でもいいよね?

 だって二人の写真、欲しいんだもん!


「うんわかった。撮ろうか」


 ──よっしゃっ、作戦成功!


 心の中でガッツポーズした。


***


「ほらガタニ君、隅っこ寄りすぎ!」

「いや、だって、あんまりくっつくのは申し訳ないし……」

「いいからいいから!」


 プリクラのボックスの中で、彼の腕を引く。


 だってガタニ君は恥ずかしいのか、ボックスの端に寄ってるんだもん。


 決して彼とくっつきたいってことじゃないからね。

 写真のバランスが悪すぎるからね。


 ……まあ、くっつきたいんだけどね。えへへ。


 そうして撮ったプリクラを手にした。

 うん、綺麗に撮れてるっ!


 ガタニ君と二人で写ってる。

 まるで恋人同士みたいに。


「ぶふふ」

「どうしたの赤根さん?」


 うわっ、無意識にニヤけて変な笑い声が出てた。ヤバっ。


「ちょっとくしゃみが出た」


 わざとらしい言い訳……。

 でもガタニ君は「そっか」と笑ってくれた。


 そんなガタニ君もプリクラを見てニヤニヤしてる。


 やった!

 彼も嬉しいんだよね?


 私もまたプリクラを眺める。

 ヤバし。これ、何度見ても飽きない。


 ふと自分の顔に目が行った。

 耳にはガタニ君が選んでくれたブルーのイヤリングが付いてる。


 彼が選んだイヤリングを付けて、彼と二人で撮った写真。


 ……いやこれ、ヤバくない?


 めっちゃいいんですけど!


「ぶふふ」


 うわ、また変な笑い声が漏れた!

 ガタニ君が不思議そうな顔で見てる。


「あ、またくしゃみ」


 さすがに二度はわざとらしすぎるかと焦った。

 けどガタニ君はまた「そっか」と笑ってくれた。


 いい人すぎるでしょ!


 ──あ。


 私の耳に付いているイヤリングを見て、すっごくいい作戦をふと思いついた。


 このイヤリングは、ガタニ君が好きだと言うブルー。

 ガタニ君に面と向かって『この色好き?』って訊いたらどうなると思う?


 ──そう。


 彼は私の顔をじっと見て『好きだよ』って答えるに違いない。


 そんなこと言われたら……うっわ、絶対にめっちゃキュンキュンするぅーっ!


 ヤバくない? ヤバくない?


 もちろんそんなの、単なるバーチャルだってわかってるよ。

 ガタニ君がホントに私を好きって言うわけじゃない。


 でも、それでも。

 そんなシチュエーションに萌えてしまう。

 わかるよね?


 そんな素敵な作戦を思いついた私は、ゲーセンを出たらすぐに決行しようと心に決めた。

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