第15話:赤根さんは歌う②
◆◆◆
──で、歌い終わった。
全員きょとんとしてた。
俺が思う「劇場版大ヒット」はあくまでオタクの世界での大ヒットだったみたいだ。
「なんだよ
バスケ部の高橋よ。
その、鼻でふふんと笑う感じは、アニメをバカにしてるな?
はっきりとバカにするセリフは言ってないが、雰囲気でわかるんだよ。オタクは敏感なんだ。
テニス部の鈴木も「おまえガキかよ」とか言ってる。
「アニメはガキの趣味じゃないぞ」
どうだ。言ってやった。まいったか。
「ガキじゃないならオタクかよ」
待てよ鈴木。そんな否定できないことを言うな。
俺はオタクだよ。
くそっ、ちょっと悔しいけど返す言葉がない!
なんてことをやり合ってたら、急にイントロが流れ始めた。
この曲は──
「コレ、画像からしてまたアニメソングか? なんだよ御稜威ヶ谷。またアニソン入れたのか?」
「いや、俺じゃない」
「じゃあ誰だよ?」
鈴木が周りを見回した。
「はいはいはーい! 私でーすっ!」
手を挙げたのはなんと赤根さん。
そう。この曲は赤根さんと毎日昼休みに一緒に観たアニメ『転生したらゴブリンでした』のオープニング曲『君は弱くなんかない』だ。
応援ソングって感じのタイトルで、アップテンポでいい曲だって赤根さんが言ってた曲。
赤根さんが歌い始めると、そこにいるメンバー全員が衝撃を受けた。
先ほどのバラードで見せた繊細な歌声とはうって変わって、今度はビートに乗ったパンチのある歌声。しかもアニメソングらしくキュートで可愛い声!
まさに変幻自在の歌姫。
そしてノリノリなダンスも上手い。
ゆらゆら揺れるスカートから伸びる長くて白い脚。
きゅっとくびれた腰をリズミカルに左右に振る。
リズムに合わせて笑顔で手を振ると栗色の髪が可愛く揺れる。
なんだこれ。トップアイドルかよ。可愛すぎる。
準優勝したうたうま選手権で、その可愛さで優勝者よりも話題になったって話。わかりみが深すぎる。
赤根さんの歌とダンスに釣られ、みんなも自然と乗ってきて身体を動かし始める。
拳を振り上げ、声援を飛ばす。
「いや、アニソンもいいな!」
「おう、いい曲だ!」
高橋と鈴木がそんなことを言ってる。
そしてサビ。赤根さんはさりげなく俺に視線を向けながら歌う。
「君は弱くなんかない♪ 君は素敵さっ!」
これはきっと俺へのメッセージだ。
赤根さんは俺を励まし、アニソンをバカにした二人にその良さを教えている。
なんだよこれ。最高かよ赤根さん。
そしてエンディング。
最高潮の盛り上がりで、最後まで赤根さんは歌い切った。
大喝さいが起こる。
やっぱすっげぇ赤根さん!
みんなも絶賛してる。
「これは『転生したらゴブリンでした』ってアニメのオープニングなんだ!」
赤根さんの言葉に高橋が反応する。
「へえ、赤根さん、アニメ観るんだ」
「うん観るよ。面白いよ!」
「じゃあ俺も観てみようかな」
「おう、俺も観る!」
高橋も鈴木も調子いいな。
俺ならオタク扱いで、赤根さんが勧めたらそれかよ。
でもこれが赤根さんというインフルエンサーの力だ。すごいな。
ボーっと彼女を見ていたら目が合った。
さり気なくだけど、赤根さんは微笑みかけてくれた──ような気がする。
俺の勘違いかもしれないけど。
そう思いながらふと周りを見たら、なぜか数寄屋も秋星さんも優しい眼差しで俺を見てる。
えっと……なぜですか?
まあ、とにもかくにもカラオケは大盛り上がりを見せ、あっという間にお開きの時間となった。
カラオケルームを出て店の前で、高橋と鈴木が赤根さんにLINE交換を求めてる。
「ごめんね。私、女子としかLINEしないんだ」
残念そうな二人。
そうなんだ。赤根さんって女子としかLINEしないのか。
そういえば俺も毎日のように会ってるけど、LINEは交換していない。
俺の場合はもちろん交換しようなんて言ったことはないけど。
って言うか、俺のLINEには家族以外は数寄屋しか登録ない。
*
翌日の昼休み。
いつものように校舎裏のベンチで赤根さんと顔を合わせたら、彼女は唐突にこう言った。
「ね、ガタニ君。LINE交換しよ」
「え? 突然なんで?」
「ん~今までなんとなく、交換するの忘れてたから」
「いやそうじゃなくて……」
昨日他の男子の申し出を断ってたのに、という言葉が喉まで出た。
確か女子としかLINE交換しないんだよな?
やっぱり赤根さんにとって俺は女子枠ってことか。
まあいいや。所詮そんなもんだろ。
だから俺は素直に答えた。
「うん、交換しよう」
「ありがとう」
「いや、ありがとうはこちらのセリフだよ。昨日もあの曲を歌ってくれてありがとう」
「うん。私からいつもお世話になってるガタニ君への歌のプレゼントってわかった?」
「いや別にお世話なんてしてないよ」
「してるよぉ~」
実際にお世話をしてるかどうかは関係なく、赤根さんが楽しそうにそう言ってくれるからまあいいかと思った。
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