第13話:ガタニ君は感激する
◆◆◆
「この前の大雨の日、彼は自分がずぶ濡れになってまで私に傘を貸してくれたんだよ! それがきっかけで何度か話したけど、誠実でいい人だよ」
雨の日をきっかけに何度か話したという嘘は、クラスメイト達の俺へのやっかみを避けるためだろう。
「それは……あの子が赤根さんに好かれたいからじゃないの?」
まだ納得しないのか、女子二人は釈然としない顔をしてる。
「そうじゃないよ。そういうのは私敏感だから、ちょっと話せばわかる。ガタニ君はそんな人じゃない」
「そうだね。くるみんは確かにそういうのに敏感だから、彼女が言うなら間違いないよ」
あれは──赤根さんと仲のいい
なぜかあの子まで俺の味方をしてくれてる。
なんで?
「ちょっと待て。俺にも言わせろ」
なんだよ数寄屋。まだなんかあんのか?
「俺は大和と中学から仲がいいからわかる。あいつホントにいいやつだから信用してくれ」
「あ……うん」
「まあアイツがスケベなのは間違いないけどな。そんな変なことをするやつじゃない」
おいおい数寄屋!
結局俺をディスるのかよ?
でも女子二人はクスクス笑ってる。
俺も聖人君子じゃないし、あれくらい言った方がかえって信用してもらえるのかもしれない。さすが数寄屋だ。
さすがに男女カーストトップの二人が断言して、秋星さんまで加勢したこの状況だと──
「わかった。変なこと言ってごめん」
「うん、私も謝る。彼もカラオケに誘おう」
女子二人が納得してくれた。
冤罪が晴れてホッとした。
でも別に、カラオケは誘ってくれなくていいんだけど。
数寄屋と赤根さんが俺のところに近づいてきた。
「なあ大和。一緒にカラオケ行こうぜ」
「行こーよガタニ君!」
なんだよ数寄屋も赤根さんも。
この二人にそんなふうに言われたら。
この状況で断れるはずもない。
俺は歌下手だし、アニソンくらいしか歌えないから、ホントはカラオケ行くの気が進まないんだよなぁ。
お前らのせいで、結局カラオケに行かざるを得なくなったじゃないか。お前らのせいで。
……ホントにありがとう。
友達のありがたみで涙が出そうだ。
「うん、行くよ。かばってくれてありがとう」
*
結局カラオケの参加者は男子4人、女子4人の合計8名。
男子は言い出しっぺのバスケ部員高橋とテニス部の鈴木、そして数寄屋と俺だ。
女子は赤根さんと友達の秋星さん、それと俺のことを誤解してた二人、女バスの豊田さんと女バレの田中さん。
つまりアレだ。
青春を謳歌してるバリバリの陽キャ7人と、オタク生活を謳歌してるバリバリの陰キャの俺一人という
この時点で軽いイジメじゃないのか? という気がしないでもないが。
まあ流れからして、ありがたく参加させていただくことにする。
歌わずに、置物みたいに静かに座っていればいいだけの話だ。
人の歌を聴くのは嫌いじゃない。
カラオケルームは学校の最寄り駅近くにある。
そこまでみんなで歩いて向かう。
俺は赤根さんに確かめたいことがある。
だから歩きながらさりげなく近づいて、周りに聞こえないような小声で話しかけた。
「赤根さん、さっきは助けてくれてホントにありがとう」
「いつも私の方がたくさん助けてもらってるからね」
「なに言ってんだよ。俺、なにもしてないし」
「そんなことないよ」
俺に気持ちの負担をかけないように、そう言ってくれてるんだな。
ホント気遣いができて優しい人だ。
赤根さんのいいとこ、また一つ見つけてしまった。
「それにしても赤根さんが男子と一緒に遊びに行くなんて珍しいね」
「あ、うん。数寄屋君に誘われたんだ」
なんだって?
さすがの赤根さんもイケメンに誘われたら弱いってことかな。
なぜだか少し胸がキュッと痛んだ。
「数寄屋君がね。『
「……え? まさか数寄屋がそんなことを?」
なんでアイツが赤根さんを誘うんだ?
しかも俺の名前を出して。
わけわからん。
赤根さんは、俺が行くなら行こうって思ったのか。そうなんだ……
「ねえねえ赤根さん! 俺、赤根さんの歌聴くの楽しみだなぁ〜」
「俺も俺も! まさか赤根さんと一緒にカラオケ行けるなんて思ってもみなかったよ。今日はよろしくな!」
高橋と鈴木の男子二人が、いつの間にか近づいてきてた。やけにはしゃいでる。
二人とも割とカッコよくてモテるタイプだけど、赤根さんと行動を共にするのはものすごく嬉しそうだ。さすが赤根さん。
やっぱり赤根さんって男子から人気高いんだなぁ。
俺はお邪魔だな。
静かに彼らから離れて、数寄屋のところに寄って行った。
「なあ数寄屋」
「ん? どうした?」
「なんで誘ったんだ?」
「たまには大和もクラスのヤツらと交流させたいからだよ。そしたらあんな誤解はなくなる」
「もしかして数寄屋、俺が変な噂されてるのを知ってて誘ったのか?」
「さあな。たまたまだ」
この言い方。やっぱコイツ、知ってたんじゃないのかな。ホントいいやつだよな。
「それに赤根さんまでお前が誘ったらしいな」
「そうだよ。あの子がいた方が、
「なんで俺が赤根さんと関係あるんだよ」
「お前ら仲良さそうだから」
「ほわっ!?」
いきなり図星を突かれて、思わず変な声が漏れた。
カッコ悪りぃ。
「ななななんでだよ。別に仲良くなんて……」
「心配すんなよ大和。誰にも言わないから隠さなくていい。それともお前、親友の俺にも言えないような秘めたることを赤根さんとしてるのか?」
「秘めたるってなんだよ。そんなのしてない」
「じゃあいいじゃん。なんで仲良くなったのか知らんけど、別に詳しいことは聞かないけど、お前と赤根さんが仲良いのは確かだろ?」
ニヤリと笑うな。
意地悪そうな顔しても様になるイケメン具合がムカつくぞ。
「まあな。よく話はする。でもよくわかったな」
「お前ら二人で校舎裏にいただろ。たまたまだなんて誤魔化してたけど、俺にはわかるぞ」
「あ、いや……」
「お前があんな自然な感じで話せる女子は他にいないからな」
モロばれだった。
さすが俺の唯一の親友だ。
「赤根さんの方も、教室でお前のことをガタニ君なんて呼んでたし」
あの時数寄屋は不思議そうな顔してたけど、しっかり覚えてやがる。
「それにお前と話す時の彼女、他の男子との接し方と違うからな」
「そ……そうか?」
そんなの全然気がつかなかった。
「ああ。柔らかいって言うか自然って言うか。女子の友達と喋ってる時の赤根さんに近いかな」
それって俺が異性と思われてないってことだよな。
「いやそれにしても。数寄屋お前、赤根さんのことよく見てるな」
「そりゃそうさ。あれだけ可愛い女の子だからな。気にもなるだろよ」
なん……だと?
まさか数寄屋が赤根さん狙いだとは思わなかった。
「そんな心配そうな顔すんなよ。お前から赤根さんを取ったりしないから」
「いやいや取るとか、赤根さんは俺のもんじゃないし……」
「あはは、そりゃそうだな。だけど俺の言葉に嘘はない。まあ今日は楽しもうぜ」
肩をパンと叩かれた。
何を言っても憎らしいくらい爽やかなヤツだ。
「ねえねえ数寄屋くーん」
女子二人が近づいて来たから、俺はまた静かに離れた。
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