第12話:ガタニ君は誤解を受ける
◆◆◆
今日の昼休みに、赤根さんから好きな異性のタイプを訊かれた。
陽キャの人って、異性にもそういうの気軽に訊くんだなぁ。
あ。もしかして俺が異性と見られてないってことか?
きっとそうだよなぁ。
ああいう質問にどう答えるのが正解かよくわからない。
こういう時、やっぱり目の前にいる女の子と同じタイプを答えるのが礼儀なのか?
でももし俺が赤根さんのような『可愛くて明るくて優しい人』が好きなタイプです、って答えたら……
ええーっ? ガタニ君って私を狙ってるのぉぉぉ〜なんて、気持ち悪がられるに決まってる。
だからあえて赤根さんとまったく違うタイプを答えた。
頭に浮かんだのは、推しアニメの推しヒロイン、イチハさん。だから『クールなタイプ』だ。
だけど全然違うタイプを答えたのは、赤根さんに対して失礼だったかも。
うーん……赤根さんみたいなタイプを答えるのと、まったく違うタイプを答えるのと、どっちが正解だったんだろうか。全然わからない。
これは恋愛初心者にとって超難問だ。
「おい
「あ、うん」
数寄屋の声で我に返った。
そう言えば今は、体育館で体育の授業中だった。
男子はバスケットボール、女子はバレーボール。
体育館内の対角線上に離れた場所でそれぞれ授業を受けている。
練習試合の合間の休憩時間で、つい考え込んでしまっていた。
──あ。
考えごとをしていたせいで、俺は無意識のうちに、体育館の反対側にいる赤根さんを遠目にボーっと見つめてしまっていた。
彼女もバレーの試合の合間のようで、数人の女子と集まって喋っている。
うん、体操服姿の赤根さんもいいな。
制服よりも身体の線が出てるから、胸の大きさも脚の綺麗さも、よりわかるし。
……って、俺よ。赤根さんをエッチな目で見るのはやめたまえ。
赤根さんは俺が見つめていることに気づかないふりをしてる。だけどチラチラとこちらを窺ってるから、きっと俺の視線に気づいているに違いない。
そしてなぜか、彼女の周りの女子数名が明らかに俺を睨んで、何か言ってる。
いったいどうしたんだろうか……?
ちょっと嫌な予感がした。
*
一日の授業が終わり、ホームルームも終わった。
「あと一週間で一学期末試験が始まる。キミ達が高校に入って初めての期末試験だ。中間試験よりも難しいから、しっかりと試験勉強をするように!」
──なんて担任が言ってた。
だけどそんなの知らん。帰ってゲームでもしよう。
カバンを持って席から立った時、誰か男子が大きな声を出した。
「よぉーし、今日から部活動停止期間だ! カラオケ行こうぜっ!」
「おう、そうしよう!」
運動部のヤツらだな。
部活が休みになるのはテスト勉強に集中するためだぞ。
なのに遊びに行ってどうすんだよバカ。
はい、自分のことを棚に上げる本物のバカは俺です。
──てなことを考えてるうちに、カラオケ組は声を掛け合って、陽キャ連中の男女数名ずつが参加するという話になっている。クラスの中心的存在のヤツらはなかなかお盛んだな。
クラスの空気的存在の俺には関係のない話だ。
──あれっ?
なんとそのメンバーの中には赤根さんもいる。
女子だけならともかく、男子もいるメンバーで遊びに行くなんてめちゃくちゃ珍しい。
意外だ。どうしたんだろう?
「おい
なんですと?
突然数寄屋から話しかけられた。さっきカラオケに誘われてたから、こいつも行くんだな。
数寄屋はサッカー部だしイケメンだし、誘われるのが順当だ。
だけど俺は静かに過ごしたい。
陽キャ連中のグループとカラオケ行くなんて、俺にとっては拷問以外の何者でもない。
だからたとえ数寄屋が行くとしても、俺は行かない。
「ちょっと待ってよ数寄屋君!」
参加者の一人の女子が、数寄屋の後ろから声をかけて、何やらこそこそ内緒話をしている。
「ほら、あの子。名前なんだっけ。とにかくなんであの子を誘うのよ。やめてよ」
やっぱり俺、名前覚えられてなかった。
「いいじゃん。俺の
「やだよ。だって彼、体育の時にいやらしい目で女子を見てたんだよ?」
あの……内緒話のつもりなんだろうけど、俺耳がいいから結構聞こえてるんだけど。
どうやら俺は冤罪を受けてるようだ。
だけどわざわざ弁明するのもめんどくさい。
放っておこう。
「そんなの気のせいだろ」
数寄屋が否定したら、もう一人別の女子も話に加わってきた。
「んなことないよ。あの子、普段教室でもほとんど話さないし地味だし、なにを考えてるのかよくわかんないもん」
そっか。つまり普段の俺の行いの報いってことかもしれない。
人ってやつは未知のものは必要以上に怖く感じるって習性がある。
「おいおい、そんなことないって」
さすがに数寄屋もちょっと怒った顔をして、俺をかばってくれてる。
でもいいよ。面倒かけるのも申し訳ないし、さっさと帰ろう。
そう思って教室の出入り口に向かって歩き出そうとした時。
一人の女子の声が聞こえた。
「ちょっと待って。ガタニ君はそんな人じゃないから!」
その声の主は赤根さんだった。
俺を悪く言ってた女子二人に向かって、俺を擁護してくれてる。
それを聞いた女子二人は目を丸くした。
遠目で様子を伺っていたクラスの男子達も驚いた顔をしている。
そりゃそうだ。
特定の男子とは仲良くしない学校イチの人気女子。
明るくて、とてつもなく可愛くて、俺みたいな地味男子とはまったく接点がなさそうな存在。
そんな赤根くるみが──。
誰もが想像だにしないセリフを吐いたのだから。
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