第11話:赤根さんは嫉妬する

♡♡♡


「じゃあ次は私の番だね。えっと私の好きなタイプは……」


 真面目で誠実でガタニ君みたいな人……

 なんてことが頭に浮かんだけど、恥ずかしくてもちろん言えるはずもない。


 その時見慣れた男女が二人で歩いてくるのが目に入った。

 校舎裏に二人で来るなんてどういう関係なんだろうか。

 あれはガタニ君と仲がいい数寄屋すきや君と、クールビューティー月ヶ瀬つきがせさん。


 艶やかな黒髪ロングにすらっとしたスタイル。

 切長の美しい目。キリッとした顔つき。


 ガタニ君は、ああいうのが好みなのか……


 ああっ、なに?

 月ヶ瀬さんを見てたら、胸がキュッと苦しくなる。

 なんで?

 こんな気持ちは初めてだ。


「ああ、赤根さんの好きなタイプは、数寄屋みたいな男子なんだ」


 横でつぶやいたガタニ君の声で、ハッと我に返った。

 私が月ヶ瀬さんじっと見つめてたから、その隣にいる数寄屋君を見てるのだと勘違いされた!?


「あっ、ちがっ……」


 そんな勘違いされるのは困る!

 慌てて否定しようとしたのに、こちらに気づいた数寄屋君が話しかけてきた。


「おっ? 大和やまとと赤根さん? こんなとこで二人で珍しいな」

「うん。俺はいつもここで弁当食べてんだけど、たまたま赤根さんが通りがかってさ」


 月ヶ瀬さんは黙ったまま、相変わらずクールな表情で私たちを眺めている。確かに美人だ。

 今の言い方。もしかしてガタニ君は、好きな月ヶ瀬さんに私たちのことを知られたくないからなのかな。


「そっか。じゃあ俺たちは行くわ」


 数寄屋君は手を振って、月ヶ瀬さんは軽く会釈して二人して立ち去って行った。

 なんだか仲良さげな二人だ。


「あの二人、付き合ってるのかなぁ……」

「いや……違うと思うよ」


 しまった。ガタニ君に聞こえた。

 もしもガタニ君が月ヶ瀬さんを好きなのだとしたら、今のは彼を傷つけるようなひと言だ。

 私ってなんて迂闊なのか。


「俺、数寄屋とは仲良いからわかってる。アイツ今は彼女いないし」

「あ、そうなんだ」


 ──ということはつまり。

 ガタニ君にとっては月ヶ瀬さんと付き合うチャンスはまだある……ってことだよね?

 それは裏返せば私にとっては──


 その時、昼休み終了の予鈴が鳴った。

 教室に戻らないといけない。


「別に私、数寄屋君が好みってわけじゃないからね」


 教室に戻るまでにそれだけは伝えた。

 ガタニ君は「そっか」と優しく微笑んでいた。



「だぁーっ、ダメだぁー!」

「どうしたのくるみん?」


 放課後。下校路を歩きながら、唯香にお昼の出来事を話した。


「ガタニ君、照れてるだけじゃないの?」

「そんなふうに思えないよ」

「大丈夫だってば、くるみん」


 唯香は他人ひとごとだから簡単に言うけど──


「状況証拠からして、ガタニ君が好きなのは私じゃない可能性がめちゃ高くない?」

「そんなことないと思うよ。だって毎日昼休みにはくるみんと過ごしてるんだし。ジェラート誘ったらほいほいついてきたんだし」

「ほいほい言うな! ガタニ君が軽い人みたいじゃん」

「そういう意味じゃないよ」

「わかってるけど……」


 わかってるけど。

 ガタニ君のことを考えるたびに月ヶ瀬つきがせさんの顔が浮かんでしまう。


「ううぅぅぅ……月ヶ瀬さんかぁ……」


 気がついたら頭を抱えて、両手で髪をわしゃわしゃしてた。


「ねえくるみん」

「なに?」

「月ヶ瀬さんって美人だもんねぇ」

「くっ……。唯香、もしかして私にケンカ売ってる?」

「そんなわけないじゃん。あたしはくるみんの親友だよ。あんたを応援しかしてない」

「じゃあなんでわざわざそんなこと言うの?」

「ふふふ……」


 怪しげな笑いはやめて。

 ますます不安になる。


「今のくるみんのリアクションで確信したよ」

「なにを?」

「くるみん、あんた。月ヶ瀬さんに嫉妬してるね。しかもかなり強烈に」

「……はにゃ?」


 嫉妬?

 私が?


「嫉妬ってなに?」

「んんん……まあくるみんって、今まで異性を好きになったことがないからわからないかもね。それにあんたすっごくいい子だから、他の人に嫉妬してるの見たことないし」


 ──えっと……もしかして褒められてる?


「でも月ヶ瀬さんの話をするあんたは、完全にジェラシーガール。恋する女の子って感じ」


 まさか私が?

 月ヶ瀬さんに嫉妬してる?

 それは私がガタニ君に恋してるから?


 いや、そんなことない……はず。

 恋がわからない。


 でもちょっとだけガタニ君を好きなのかも──って気はする。


「まあくるみん。そんな深刻な顔しなさんな。なんだかんだ言っても、やっぱり彼はくるみんを好きだって気がする」

「そっかなぁ」

「うん、私の勘だけどね。だってくるみんはいい子だし、そんだけ可愛いんだから大丈夫」

「可愛いとか、ガタニ君はあんまり気にしてないと思う」

「ほらほら、そんなネガティブにならないの! 心配してる暇があったら、彼にもっと好きになってもらうように頑張ろう。それが恋ってもんだ」

「だから恋じゃないって!」


 恋じゃないと思う。──まだ今は。


「はいはい。わかったわかった。とにかくがんばりなよ」


 唯香の温かい励ましに、そうだよね、もっと頑張ってみようと思えた。

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