第49話 ロボ ②
そして迎えた部活オリエンテーションの日。
私は部室で新入生を待っていた。
待っていた、と言っても、ハッキリ言ってしまえば、こんな存在意義の分からない部活なんて誰も入らないだろう、と思っていた。
里美お姉ちゃんには申し訳ないけれど、きっと誰も来ないし、廃部になる。
そんな確信を胸に秘めつつ、すこーしドキドキしながら部室で待機していた。
すると……
コンコーン♪
「誰かいますかー?」
うわ……き、きた…。
コンコーン♪
「ここ文化交流部ですかー?」
そうだけど……男の子…か
コンコーン♪
「入りますよー。」
うそ?!
ガラガラッ
「失礼します!」
えっ?!ちょっと待って…
「あ、こんにちは!僕は新入生の神田です!入部希望です!」
ほ、ほんとに?こんな元気そうな子が?な、なんでこんな目立たない部に??
「………入部?」
「はい!文化交流部ですよね、ここ。僕達は青春しにここに来ました!入れて…くれますか?」
「…ふふっ」
思わず笑ってしまった。
だって、青春しにきたとか、まさか里美お姉ちゃんの意思を継ぐ人が現れるなんて、夢にも思わなかったから。
そしたら…そんな私を見てこの子は、「綺麗」と言った。
その言葉にドキドキして、恥ずかしくなった。
恥ずかしくて、どうしていいか分からなくなった私は、矢継ぎ早に廃部の事を告げて誤魔化した。
早く諦めてこの場から出て行って欲しい、そう思ったから。
もうこれ以上、私の心を乱されるのが怖くなったんだ。
なのに、この子はそんな私に構いもせずにぐいぐいと話を進めていった。
パニックだった。
そして……彼は何故か私の横にちょこんと座り、人懐っこい笑顔を向けて「撫でてみて」って…。
訳が分からなかった。
だけど私は、そんな彼を拒絶するどころか、気づいたら彼の頭を撫でていたんだ。
すると、さっきまでドキドキと張り裂けそうだった鼓動は落ち着き、まるで幼かった頃の弟をあやしている時のような、穏やかで、どこか安らぐ気持ちになっていた。
そして、何故か次第に彼のことが可愛いくて可愛いくて仕方がなくなっていた。
その時は『何故?』なんて思いもせずに、ただ懐いた犬を夢中になって撫でているような、そんな優しい感覚の中にいた。
その後の会話も、楽しくて楽しくて、ずっと笑顔が止まらなかった。
そして彼が部室を後にし、一人になった私。
驚愕していた。
自分自身に、驚愕していた。
笑っていた。
楽しんでいた。
彼に心を開いて、安心していた。
そして、彼がいなくなった後、言いようのない寂しさに襲われている自分。
さらに、明日また会える事を待ち望んでいる自分。
そんな自分に、驚いていた。
不思議な子だった。
今思えば、もう、この時から私は彼を愛していた。
愛らしくて、一瞬で心を開けた彼は自分の弟なのだと、そう思い込んでいた。
だって、そんな存在なんて、今まで弟しかいなかったから。
次の日、彼は本当に部員を集めてきた。
昨日一緒に来ていたイケメンと、美少女二人を連れて来た。
南野さんと春野さんはとにかく明るかった。
けど、所謂陽キャって感じの、こちらにも同じノリを強要してくるような感じではなくて、まるで親戚のような気軽さで接してくる。
全然私に遠慮とか配慮みたいなことはしないし、かといって邪険にもしない。
セミ君を中心とした同じ仲間同士なんだから、いくら私が話さなくてもここにいることが当然。
最初からそんな感じだった。
そんな彼女達だから、私も少しは話せるかと自分に期待していたけれど、中々上手く行かなかった。
ロボだった期間が長すぎたことで、自分を表現する方法が分からなかったんだ。
だけど二人は私を無視しないでいてくれる。
まごついて、中々応えられない私を気にもせずにどんどん話を振ってくれた。
今まで、ロボに徹していた私とコミュニケーションを取ろうとしては誰もがすぐに諦め離れていった。
だからこんな事は今までになかった。
それでも、どうしてもセミ君以外とは上手く話せなくて心が痛んだけれど、私はとても嬉しかった。
学校に来ることが楽しい、なんて思うようになっていた。
そして、数日後に私は人生で初めて告白を受けた。
相手はセミ君の親友、飯塚君。
今まで芸能人でしか見た事が無いような超イケメンだ。
一緒に部室にいても話したことは一度もなかったけれど、彼は「一目惚れです」と言ってくれた。
信じられなかった。
だけど嬉しいと思えた。
別に彼がイケメンだからって訳じゃなくて、セミ君としか話せないような、そんな変な私だと知った上で告白してくれたことが嬉しかったんだ。
返事は「はい」としか言えなかったけれど、晴れてこの日から私達は恋人関係になった。
恋人になってからも、私はどう接したらいいのか分からなくてしばらくは全然話せなかった。
けれど、夏休み登校日の一件からは凄く仲良くなることが出来た。
やっと、セミ君以外の人にも自分を出せることが出来たんだ。
聞けば、セミ君のアドバイスのおかげで仲良くなれた、彼はそう言っていた。
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